【同友会景況調査(DOR)概要(2010年4~6月期)】業況水準の足どり重く、先行き不透明

手放しでは喜べない「回復」

7月1日に発表された日銀短観(企業短期経済観測調査)によると、大企業は製造業が3月調査の△14が6月調査では1となっています。大企業製造業は2年ぶりのプラスで水面上に到達しています。

これに対し、中小企業は、製造業が△30→△18、非製造業が△31→△26でした。製造業では大企業、中小企業とも2ケタ台の改善ですが、回復テンポは大企業に比べ、中小企業は製造業、非製造業とも立ち遅れています。

DORでみると業況判断DI(「好転」-「悪化」割合)は△18→△4(14ポイント改善)と2ケタ台の回復です。もっとも日銀短観と同一の調査方法をとっている業況水準DI(「よい」-「悪い」割合)は△36→△32、変化幅4ポイントに止まっています。といっても、とても手放しで喜べる場合ではありません。

さらに次期(7~9月)見通しでは業況判断DIは△4→△6と2ポイントの悪化が見込まれるなど、ミニ・リセッション(軽微な景気後退)の様相です(図1)。

売上高DI(「増加」-「減少」割合)も△19→△6、経常利益DI(「増加」-「減少」割合)も△17→△7となるなど、ほぼ業況判断DIと並ぶ回復ぶりです。

全業種で改善するも、不安材料も散見

業種ごとにみると、建設業では業況判断DIは、△31→△20と1~3月期に引き続いて改善しました。また、売上高DIも△36→△26へと改善、業況判断DIや売上高DIがマイナス20台の水準に戻したのは、2007年10~12月期以来のことです。さらに、経常利益DIも△37→△31と持ち直しています。

製造業の業況判断DIはアジア市場の活況の波の中で鉄鋼、金属、機械器具、化学の業況好転に引っ張られる形でリーマン・ショック以前の水準を回復しました(0→13)。また売上高DI(△4→11)、経常利益DI(△23→10)、採算水準DI(1→5)も好転基調にあります。しかし業況水準 DI(△2→△25)の回復の足取りは重く、対ドル・ユーロでの円高基調のもとで輸出の先行きには不安感も払拭できていません。未だ内需に軸足を置いた自律的な回復の糸口がつかめない状況にあります。

流通・商業の業況判断DIは△26→△12、売上高DIは△25→△11、経常利益DIについては、△23→△11とそれぞれ改善がみられるものの、仕入単価DIについては、△11→1と12ポイント上昇し、仕入価格が急騰していることを伺わせます。

サービス業では業況判断DIは△22→△9と改善をみています。これで、09年1~3月期、4~6月期の△48を底に、4期連続の改善です。同様に売上高DIは△22→△10、経常利益DIも△14→△9へと改善しています。業況水準DIでも△30→△23と改善をみているものの、しかし業況の「悪い」企業数が「良い」企業数を今でも大きく上回っていることには変わりません(図2)。

仕入単価は全業種で「上昇」超過へ

素材価格の上昇を中心に上昇圧力が強まっていた仕入単価DI(「上昇」-「下降」割合)は△7→10と、5期ぶりに「上昇」超過に転じました。とくに新興諸国の需要増加にともなう国際商品価格の上昇をうけて、石油・石炭製品は30%、非鉄金属は20%近く上昇した(昨年5月比)とも言われており、素材価格を中心に仕入価格の上昇圧力が高まっています。また、今期はすべての業種で仕入単価DIが「上昇」超過に転じています。すなわち、建設業(△10→3)、製造業(△2→25)、流通・商業(△11→1)、サービス業(△3→5)となっています。

売上単価DI(「上昇」-「下降」割合、△46→△34)は、依然として水面下ながら2期連続の改善が続き、持ち直しの兆しがみられます。

仕入単価の「上昇」超過が著しく進んだことで、仕入単価と売上単価との格差は、前回調査の39からさらに10ポイント以上拡大して44となりました(図3)。来期以降も素材価格の上昇が続くとの見方は強く、仕入価格の上昇をスムーズに販売価格に転嫁する経営施策の実践が求められます。

主要DIは改善でも、先行きには懸念が

資金繰りDI(「余裕」または「やや余裕」企業割合-「窮屈」または「やや窮屈」企業割合)は△9→△7と、2009年1~3月期以降の改善が今回も続く結果となっています。また、正規従業員数DI(「増加」-「減少」割合、△11→△1)、臨時・パート・アルバイト数DI(「増加」―「減少」割合、△12→△7)は、共に改善が進んでいます。しかし、人手の過不足感DI(「過剰」-「不足」割合、15→20)では過剰感の再燃が懸念されます。

設備投資実施割合は、1~3月期の23.5%から今期の26.9%へと、08年10~12月期の25%割れ以来1年半ぶりに25%を上回りました。

しかし、次期(7~9月期)計画割合をみると、24.%と予想され、いまだ設備投資には決定的な明るさが欠けています。

先行き不透明下での対応

価格競争の厳しさから売上単価は下降が続く一方、材料価格の高騰の影響が仕入価格に現れ始めている。中小企業にとって「先行き不透明」感は、払拭されていないどころか、強まっているといえるかもしれません。この先行き不透明感への対応をみると、1つは、「仕入れ価格の上昇」への対応として価格決定権を日常的に持てるような状況を意識的に作っておくこと。

2つ目は、消費の伸び悩みの中で、各企業の「理念」やセールスポイントをあらためて顧客に訴え、目に見えるようにすること。

3つ目は、中国をはじめ中小企業の海外展開などで今後生じる可能性の高いリスク管理も検討すべきこと。

4つ目は、「宮崎は今、口蹄疫の問題で県が非常事態宣言を出して以来、あらゆる活動が停止している」(宮崎、水処理薬品、装置の販売及び設備工事)とあるように、この宮崎での口蹄疫問題は畜産関係だけでなく地域経済全体に影響していること、また宮崎県での問題は、日本のどの地域においても生じうる問題であることを認識し、地域経済の危機なども同友会理念をもとに、これまで蓄積してきたものをフルに活用することが必要です。

〈調査要項〉

調査時点 2010年6月5~15日
調査対象 2,484社
回答企業 1,023社(回答率41.2%)(建設177社、製造業351社、流通・商業307社、サービス業185社)
平均従業員数 (1)37.0人(役員含む・正規従業員)(2)40.6人(臨時・パート・アルバイト)
※業況判断DI(デフュージョン・インデックス)は、好転企業が悪化企業を上回っている割合(%)をさす。DIが100に近いほど、好転企業の割合が高いことを意味し、DIが-100に近いほど、悪化企業の割合が高いことを意味している。好転、悪化が同数の場合は、DIは0となる。ほかの指標のDIも同じ考え方で作成されている。各水準DI以外、本文中特に断りがないものは前年同期比。

「中小企業家しんぶん」 2010年 8月 5日号より