社長の率先営業で会社も変わる~(有)エイム 代表取締役 浴野 裕基氏(山口)

真の営業は製品、主役はそれを作り出す社員

浴野社長

 社名の「エイム」は、Ekino Internals Manufacturing.Co.Ltdの頭文字EIMを日本語読みしたもの。インターナル(化学装置用各種内部部品)及び各種製缶の設計製作、それに附帯する業務を行っています。

リーマンショックで大幅な売上ダウン

 エイムのエンドユーザーは石油会社と化学会社です。2008年のリーマンショックを契機とする世界的大不況は、同社にも大きな影響をおよぼしました。

 2009年の6月までは受注残がありましたが、受注物件が何件か急に中止になり、大幅な売上ダウンとなります(2008年12月から2009年3 月で約50%ダウン)。それ以降も仕事の受注はできますが、ダンピングまがいの価格競争に巻き込まれ、また、海外(特に中国)との競合もあり、受注価格が下落の一方となります。受注価格は約40%ダウンしました。

 2008年度は受注残のおかげで何とか収支トントンに持っていけましたが、2009年度は、仕事量も十分に確保できず、大幅な赤字を計上。売上は、年間トータルでは35%のダウンとなりました。

 「経費節減には、人件費を削ることが一番。しかし、社員をもうじき定年だとか、貢献度が少ないなどと整理していいのだろうか。社員が減ったら仕事の対応にも支障が出る。新規採用してもすぐには使えない」と浴野氏は考えます。そして「簡単に人を辞めさせるわけにはいかない」ということに行き着き、「顧客満足と雇用を守るために、今自分がやることは仕事を確保するしかない」と決意します。そして「仕事があるうちに」と、浴野氏は初めて飛び込み営業を始めます。

危機を乗り切るため社長営業を決意

 決意して気づいたことは、それまで朝礼で話していた内容が、「業務を改善して効率的にやろう」、「無駄をなくして利益を確保しよう」、「どんな仕事でもチャレンジ精神を持ってこなそう」など、自分の会社の内部のことしか考えていない独りよがりのものだったということ。

 浴野氏は、顧客満足(エイムのファンになっていただくこと。そのためには“お客様に愛される会社”ではなく、“お客様を愛する会社”をめざすこと)があって初めて会社の存在意義があると考えます。そして、第1に「顧客満足」、第2に「品質保証」、第3に「納期を守る」、第4に「工場を綺麗にしよう(5S。整理・整頓・清潔・清掃・習慣)」を掲げ、これを「4つの誓い」として、毎日の朝礼で「なぜこれが大切なのか」を説明しています。

 2009年の2月に、朝礼で社員に今からやってくる危機を説明しました。そして仕事を確保し危機を乗り切るために、「社長の実務は営業だけ。工場の稼働は社員に任せる」と宣言。今までのような受け身の受注ではなく、積極的な営業で仕事を取り込む必要性を説明し、今後の役割分担を明確にしました。

 また、自社が関わっている業界や、製造した製品がどこに使われ、どう社会の役に立っているかという基本的な部分を、社員に伝えていきます。その狙いは社員が製品に誇りを持つこと。「社長が営業をするのではない。社員が製造した製品が営業をするのだ。社長はその代弁者であり、真の営業は製品であり、主役はそれを作り出す社員」ということなどを、毎日朝礼で話していきます。

自主性が出てきた

社内

 それまでは、はっきりとした営業方針や戦略などは打ち出してきませんでしたが、今回はっきりと宣言することで社員に危機感の意識が生まれ、目の色が変わってきます。

 「具体的には、仕事に取り組む姿勢が変わりました。残業も休日出勤も、今までは全て私が指示をしてきましたが、社員が自分たちで判断して実行するようになりました。今は助成金を活用して雇用調整も行っていますが、基本的には社員同士で話し合って休みを回していくようになっています。少しずつですが、自主性が芽生えてきたのだと思う」と浴野氏は言います。

 就業規則の改定も行いました。人件費以外の経費節減(消耗品・外注費・電力など)を予算化し、チェックしながら15%の削減を達成しました。

 昨年2月から始めた飛び込み営業はどうだったのか、聞いてみました。

 「飛び込み営業はすごく勇気がいりますよね。入れないんです。あそこに入ろうと思うのですが、電話をする勇気がない。『とりあえず行ってみよう。近くまで行って、電話をかけて行ってみよう』とやってきました」とのこと。この浴野氏のつぶやきに、飛び込み営業に回る浴野氏の様子が伺えます。

 まずは情報収集を目的に、全国の既存のお客様、外注先や資材屋さんなど取引先を全部訪問します。「なにかあるだろうと思っていましたが、期待に反して何にもありません。1カ月かけて回って収穫はゼロ」。そこで新規の会社に飛び込み営業をはじめます。全国を回って50社くらい営業しますが、引き合いがあったのが4件、仕事になったのが1社。「正直言ってがっかりし、やる気をなくしそうでした。認識が甘かった」と浴野氏は言います。

 救われたのは「50社回って1社、すごいじゃないですか」というベテラン営業マンの一言でした。「それにどれだけ勇気づけられたか」と言います。

 「自分を奮い立たせて1社の仕事が取れました。もっと頑張れば2社、3社に、そして10社になります。仮に今仕事がなくても、抱えているお客様が多ければ、既存のお客様からの仕事が切れてもそこから回ってくる可能性が高くなってきます」と浴野氏。

 最近では、石油業界の景気回復もあり、今年の9月は目いっぱい仕事が入っているとのことでした。

 「今後は、自社がやっているものを深く掘り下げて、その道でスペシャリストになることだと考えています」と語る浴野氏です。

会社概要

創業 1981年
資本金 800万円
社員数 16名(内パート・アルバイト6名)
業種 化学装置用各種内部品(インターナル)設計製作、各種製缶品設計製作、生ゴミ処理機販売及びメンテナンス
所在地 岩国市周東町西長野2396-4
http://www.eim-tech.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2010年 8月 15日号より