地域に根ざした企業経営における女性の力~阪南大学 名誉教授 大槻 眞一氏

【APECWLN(女性リーダーズネットワーク会合)第6分科会成果発表】

 9月19~21日、APECWLN(女性リーダーズネットワーク会合、内閣府主催)が開かれ、中同協は第6分科会「地域に根ざした企業経営における女性の力」の企画運営を担当しました。第6分科会のコーディネーターを務めた大槻眞一・阪南大学名誉教授が全体会で行った「分科会成果発表」の概要を紹介します。

注目集める女性経営者

大槻先生の発表

一国の経済の発展は地域の発展の積み重ねです。 しかし、 地域おこしは、 行政が先導しさえすればうまくいくというものではありません。 まず、 地域に密着している中小企業の経営をしっかり確立していることが大事です。 その上で、 経営者の間に信頼できるネットワークができるかどうかが問われます。 そして最後に、 行政の効果的なサポートが求められます。

ところで、 興味深いことに今年のAPEC関連の会議は、「中小企業」 と「女性」の2つがキーワードになっていると感じました。 たとえば7月に大分で開かれた経済担当相の会では、 起業支援について話し合われていますし、 また、来月開かれる中小企業相の会合でも、女性の潜在力を引き出すため日米が共同で初めての「女性起業サミット」 を開くといいます。

このように女性経営者がいま注目されているのは、 女性がもっと社会に進出を果たし、政治経済にいい影響を与え、地域を良くし、 世界を良くしていくことが求められているからです。

 本分科会では、中国、 カナダ、 ベトナム、 日本の4つの国の女性経営者がそれぞれ自社をいかに発展させ、 またいかに社会的役割を果たしているかについて、 具体的なお話しをしていただきました。

 中国の方は、電子回路基板の製造を営んでいますが、今後は中日中小企業協力プラットホームの構築などの目標を持っています。

 カナダの方は、女性の貿易ネットワーク、特に先住民族、農村部、へき地に住む女性の生産能力に着目して、APEC域内の女性間の貿易を促進する事業に取り組んでいます。

 ベトナムの方は、石材の採取・加工・販売に取り組み、従業員300名を雇用しています。

 日本の方は、経営者の会を通じて、優れた経営、優れた経営者、優れた経営環境づくりに取り組んでいることなどを紹介されました。また、 参加者の皆さんからも積極的なご意見を頂戴しました。

女性の政治・経済活動への一層の参加を

一般に女性起業家には、 次のような特徴があるといわれています。

・「起業」を自分の 「生き方」として選んでいる人が多く、 経営姿勢はまじめで一途である。
・自分の感性を大事にし、 日常生活でのアイデア、 工夫を起業テーマとすることが多く、 地域社会に密着した身近なビジネスプランで開業する人が多い。

 しかし、 今日のパネリストの方のお話から分かるように、 女性経営者はこうした一般論だけでなく、 極めて大胆な事業展開や、 優れた経営者、 優れた経営環境づくりに努力しています。

 こうした努力を広げていくには、女性の政治・経済活動への参加状況を示す「ジェンダー・エンパワーメント・メジャー」(GEM、注参照)を大きくして、 経営環境の向上と地域経済の発展を図る必要があります。GEM を大きくすることは、女性の影響力を高めることであり、経営を良くし、地域を良くし、世界を良くしていくことであります。

中小企業の役割の重要性は「世界の常識」

パネリストの糸数氏(左)

 中小企業が雇用の受け皿であり、新しいサービスや技術の源であり、経済社会の発展に大きな役割を持っているという認識は、いまや世界の常識になりつつあります。たとえばEUでは、 すでに2000年に 「欧州小企業憲章」を制定し、 中小企業を 「ヨーロッパ経済のバックボーン」「主要な雇用の源」「ビジネスの発想を育てる大地」 であるとの理念を掲げ、 ヨーロッパ経済戦略の中核に位置付けています。

また、 日本でも6月に「中小企業憲章」 が閣議決定され、「中小企業は、社会の主役として地域社会と住民生活に貢献し、 伝統技術や文化の継承に重要な役割を果たす」「経済活力の源泉である中小企業が、 その力を思う存分に発揮できるよう支援する」 と述べています。 このように、 中小企業が経済社会にとってかけがえのない存在であることが定着しつつあります。

このことは、 24年前の1986年に開かれたILOの総会決議で、中小企業が「社会進歩」 に必要であると位置付け、続いて1998年の総会で「中小企業における雇用創出に関する勧告」を採択して、女性起業家の支援など、機会平等に向けた提案を行ってきた成果でもあります。

女性の力を伸ばして

 こうした時代の要請にこたえるために、女性経営者は何をなすべきでしょうか。その答えの1つは、 第6分科会のテーマである 「地域に根ざした企業経営における女性の力」 を伸ばすことであります。

また、経営者が、(1)経営革新、 (2)新事業、新技術、新サービス、 (3)地域への貢献、(4)国際展開、 (5)他機関との連携、 (6)中小企業の地位の向上などに積極的に取り組む必要があります。

 こうして個々の企業が経営を確立しながら、経営者同士のネットワークを構築することが大事です。 それには、経営者の会などが 大きな役割を果たします。 日本のパネリストから中小企業家同友会全国協議会が「労使見解」を全国的に広め、 こうした取り組みを進めていると報告がありました。

ここで知り合った女性リーダーの皆さん方がネットワークを広げ、強めながら、活躍の成果を来年のAPEC WLNで報告し合えれば、大変すばらしいことであると思います。

(注)

 国連開発計画(UNDP)の『人間開発報告書』で発表している指数の1つ。「人間開発」の概念は、社会の豊さや進歩を測るのに、経済指標だけでなく、これまで数字として現れなかった側面も考慮に入れようとして生まれました。GEMのほか、包括的な経済社会指標として「HDI」(人間開発指数:長寿、知識、人間らしい生活水準の3つの分野について人間開発の度合いを測るもの)などがあります。

「中小企業家しんぶん」 2010年 11月 5日号より