世界的大不況を乗り越えてきた「全社一丸」企業の共通点

 2008年のリーマン・ショックをきっかけにした世界的大不況は、多くの中小企業経営にかつてないほどの打撃をもたらしました。本紙ではシリーズ「全社一丸で時代を切り拓く」で、この世界的大不況を乗り越えてきた会員企業の実践を紹介してきました。

連載では、「売上7割減」など今回の不況の深刻さが浮き彫りになるとともに、その中で社員と力を合わせて難局に立ち向かっている会員企業のリアルな姿が描かれてきました。

 6月に閣議決定された中小企業憲章には、中小企業は「常に時代の先駆けとして積極果敢に挑戦を続け、多くの難局に遭っても、これを乗り越えてきた」。そして「雇用を支え」「従業員を守る責任を果たす」と謳(うた)われています。

 本シリーズで紹介した企業は、まさにそれを実践し、「中小企業は、経済やくらしを支え」るという憲章の理念を実感させるものでした。連載を終えるにあたり、紹介してきた企業の共通点を改めて振り返ってみます。(編集部)

 まず、本紙8月15日号「同友時評」では、次のように指摘しています。

 第1に、経営の責任はすべて経営者にあって、どんな困難があっても経営者には会社を維持・発展させる責任があるという同友会の「労使見解」の姿勢を貫き、危機の中でもぶれずに、「21世紀型中小企業づくり」に邁進(まいしん)していることです。

 第2に、経営者が「社員と一緒でないとこの危機は乗り切れない」という信念を持ち、「絶対に雇用は守る」というメッセージが社員の信頼感と安心感を高め、困難な中でも意欲と創造性を引き出すことに成功していることです。

 第3に、果敢に営業、新規開拓に取り組む態勢を敷き、トップが率先して事態を打開する姿勢を示していることです。

 第4に、創業の精神に立ち返る作業や経営理念の重要性から勉強のやり直しを全社的に行い、激変の中で、変わるべき部分と守っていくべき部分が整理され、共有化されています。特に、守っていく部分が、自社のDNA(創業の志)として再認識されています。

 第5に、全社員はもとより、協力企業も含め情報の共有を重視し、現状認識の一致をはかり、将来の見通しを示す努力をしていること。「どんな仕事している、どっち向いている、どこまで行っている」を明確にする「見える化」を進めていることも注目されます。

 この論評にさらに付け加えると、第6に、経営者が同友会活動に積極的に参加し、学び続けていることです。同友会の全国行事や支部活動、共同求人や社員教育、経営指針づくりなどに参加する中で、経営者としての姿勢や社員との関係を学び、確立してきたことが今回の大不況を乗り切る大きな力になっていることです。

 リーマン・ショックから約2年が経過し、その直後に比べれば景気も立ち直ってきたと言われています。ただDOR(同友会景況調査報告)2010年 7~9月期の結果では、今後「景気再後退」の可能性が大きいことが指摘されています。私たちは、一方で中小企業憲章の具体化を求めるとともに、この大不況を乗り越えてきた会員企業の教訓に学び、強靭な企業づくりに一層取り組んでいくことが急務となっています。

「中小企業家しんぶん」 2010年 11月 15日号より