中小企業の立場で考え、声を生かす行政官

米国の知恵・アドボカシーオフィスに学ぶ

 中小企業家同友会全国協議会(中同協)は、10月17日から24日にかけて米国のワシントンとニューヨークに「中小企業憲章アメリカ視察団」(団長・広浜泰久中同協幹事長)を派遣し、米国の中小企業政策などの調査を行いました。

 視察先は、連邦中小企業庁やバージニア州アーリントン郡の経済開発公社、ニューヨーク州の中小企業開発センター(SBDC)など行政関連機関や、全米独立企業連盟(NFIB)、全米女性経営者協会ニューヨーク支部(NAWBO―NYC)の中小企業団体など7カ所を訪れ、懇談しました。どこでも歓迎され、活発な意見交換ができました。

 その中で、特に印象深かったのが連邦中小企業庁の米国での存在の大きさと諸施策の徹底性です。詳しくは別稿に譲りますが、視察メンバーにとりわけ強い印象を与えたのがアドボカシーオフィスでした。

 アドボカシーとは、視察時に配布された資料の和訳文によれば「中小企業のための声」と表現されていますが、「政策提言」や「権利擁護」の意味で使われるようです。同オフィスは、中小企業庁の中にありますが、独立した部門であり、主席法務官は大統領が任命し、上院が承認するという地位を与えられています。

 同オフィスは、第1に議会の法案を検討し、中小企業のために証言すること、第2に規制弾力化法等に基づき中小企業のために規制の負担の影響を調査し、各省庁と交渉すること、第3に米国の中小企業と経済環境の経済分析等の調査研究を行うことなどの機能をもっています。

 視察の際に対応した経済分析官によれば、中小企業の重要性を経済分析で確認し、米国経済にとって不可欠の存在であるという認識を深めていると述べるとともに、現状では政府規制や法令順守のためのコストは小企業(20人未満)が大企業に比べて従業員当たり36%もコストアップになっていると強調しました。

 さらに、分析官によれば、同オフィスは中小企業から意見を聴取し、中小企業の立場から公聴会等で発言しますが、驚くことに、中小企業庁を含む連邦政府の方針や場合によっては大統領の方針に反対することもあるそうです。

 具体的には、規制弾力化法に基づき第三者が連邦政府を告訴して、その法律を止めることができるシステムがあり、アドボカシーオフィスが訴訟に加わり、法廷支援書というものを書いて支援することもあるとのこと。時には自らの方針に逆らう独立した機能を政府機関内に抱えるアメリカの懐の深さに驚嘆させられます。

 ひるがえって、わが国ではどうでしょうか。「中小企業憲章」では「中小企業の声を聴き、どんな問題も中小企業の立場で考え、政策評価につなげる」、「中小企業への影響を考慮し政策を総合的に進め、政策評価に中小企業の声を生かす」と述べています。米国やEUなどを参考に具体化に着手するときです。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2010年 11月 15日号より