【経営指針について】経営指針のあるなしで業況に大きな差

同友会景況調査(DOR)2010年7-9月期オプション調査

 2010年7~9月期同友会景況調査(DOR)では、オプション調査として、経営指針について聞いています。結果は、経営指針は多くの同友会会員がつくっていますが、内容には微妙に違いのあることが見えてきます。その結果について紹介します。

経営理念では9割を超える企業が作成

同友会では1977年以来、経営指針作成運動を展開しています。そこでいう「経営指針」とは、経営理念、経営方針、経営計画の3つの要素から構成されます(『経営指針作成の手引き』)。では、この経営指針はどのくらいの企業で作成しているのでしょうか。

DORでは10年前にも同様の調査をしており、今回と対比してみます。今回調査の結果では、作成している企業は「経営理念」で91・4%、「経営方針」で75・9%、「経営計画」が85・9%となっています。(表1)

この数字はかなり高いといえます。これをもう少し詳しく見てみます。

経営理念について業種別に見ると、この全業種平均より上回る業種は流通・商業(92・3%)、サービス業(93・5%)となっています。経営方針について業種別に見ると、平均を上回るのは建設業(76・0%)、サービス業(81・8%)です。経営計画については同様に、流通・商業(86・5%)、サービス業(87・4%)となっています。

地域的な特徴では、経営理念では北海道・東北(94・5%)で高く、経営方針では近畿(79・9%)で高く、九州・沖縄(67・2%)が低くなっています。

企業規模別に見ると経営理念は50人以上100人未満(96・9%)で高く、経営方針は100人以上(82・8%)で高く、経営計画は50人以上 100人未満(95・2%)で高くなっています。20人未満は、経営理念、経営方針、経営計画のいずれでももっとも低くなっていることがわかります。

作成し始めて10~20年がもっとも多い

「経営指針をいつ頃から作成し始めたか」を聞いています。

経営指針を作成している企業(700社)の中では、作り始めて10年以上20年未満が32・9%と最も多く、次いで5年以上10年未満(24・ 4%)、20年以上30年未満(15・1%)、3年以上5年未満(11・9%)、3年未満(8・1%)、30年以上(7・6%)の順となっています。

経営指針作成で「社長の自覚が高まった」

経営指針作成後、社内ではどんな変化があったのでしょうか。

最も多かったのは「社長の自覚が高まった」(48・9%)、次いで「幹部の自覚が高まった」(47・7%)、「社員の士気が高まった」(45・ 4%)となっています。おもしろいのは、これを地域ごとに見ると、「社長の自覚が高まった」が北陸・中部以東では全て4割台であるにもかかわらず、近畿(53・8%)、中国・四国(54・8%)、九州・沖縄(52・0%)と西日本で5割を超えていることです。

一方、「社員の士気が高まった」で5割を超えるのは北海道・東北(56・8%)、九州・沖縄(52・0%)と日本列島の両極で比率が高くなっています。

もう1つ、具体的な成果を挙げてもらいました(図1)。

「人材が育った」(41・5%)、「社内制度が整備された」(41・5%)を経営指針作成の成果としてあげたものが最も多くなっています。次いで「金融機関との関係が良好になった」(26・4%)、「対外的評価(顧客、取引先)がアップした」(23・6%)、「財務体質が強化された」(22・ 8%)が続きます。

理念、方針、計画は系統的に創られているのか

以上の結果から何が見えてくるのでしょうか。

まず経営指針についてみると、10年前と比べての運動の成果についてです。

確かに経営理念については9割を超え保有していることから、経営指針成文化運動は成功しているように見えます。しかし、この10年間の成果は比率ではわずかに0・2%に過ぎません。同じように比べると、経営方針は2・1%の前進を見ていますが、計画では2・6%減少をみています。

また、理念、方針、計画の間には10年前と同じような傾向が見て取れます。理念は9割、方針は7割5分、計画は8割5分と1割から1割5分の開きがあることです。

理念に基づいて中・長期的な方針を固め、その方針によって単年度の計画を立てる、この一貫した作業が経営指針の作成です。

中小企業を取り巻く情勢がきわめてめまぐるしく変化している現在、理念に基づく戦略的方針を立て、それに基づいて単年度計画を毎年立てていくようでなければ、とても乗り切れるものではありません。理念、方針、計画の系統的作成が重要です。そうした視点にたって、この結果をどう読み解くか、新たな課題が与えられているようです。

経営指針のあるなしによる業況の違い

しかし、そうした見方があるにせよ、もう1つ、はっきり言えることがあります。経営指針を持つところと持っていないところの7~9月期の各景況のDIを取って比べてみるとはっきりします。

理念、方針、計画のいずれで見ても保有企業と未保有企業ではDIに大きな開きがあることです。特に理念では、業況判断DIで26ポイントの差が、方針では経常利益DIで14ポイントの差が、計画でも経常利益DIで24ポイントの差がついていることです。(表2)

この経営環境の激変の中で経営者が何から始めるべきなのか。その答えは経営指針を作成することにある、という明快な回答を今回の調査結果は示しています。

「中小企業家しんぶん」 2010年 12月 5日号より