小さいもの・顔の見える関係を好むアメリカ人!?

~80年代に起きたマインドシフトとは~

 前回の時評に引き続きアメリカ視察で印象深かったことを紹介します。

 まず、中小企業数の多さに驚かされました。米国の中小企業数は、2750万社(2009年)、そのうち雇用企業数が600万社、それ以外は非雇用企業です。日本では、企業ベース(会社数+個人事業所)で約420万社(2006年)ですから、6・5倍の数です。人口比(米国3億人)を考えても、日本よりも圧倒的な数の中小企業が存在しています。

 しかも、米国の中小企業数は、リーマンショックで一時減少しましたが、2007年までは年平均3%で増加し、過去10年で1・3倍に増えています。一方、日本の中小企業数は年平均2%で減少し、過去10年で18%も減少しています。

 日本の中小企業数の減少に歯止めがかからない理由については別の機会に考えてみたいと思いますが、米国では、起業する人がなぜ多いのか。一言で言えば、社会風土が起業家に適しているから。新大陸入植時から、過去を切り捨て、「新世界」でゼロからスタートするのがアメリカ人の考え方の根本にあり、現代でもそれは根強く生きているそうです。このようなフロンティア精神を営々と受け継ぎ、独立性と創造性を重んじる米国では、膨大な中小企業を育んできました。

 しかし、もう一方では、1970年代までは巨大企業に圧倒的に優位な産業構造にあり、中小企業は必ずしもその積極的な役割が評価され、注目される存在ではありませんでした。

 転機が訪れたのは1980年代。スタグフレーションに直面した70年代からの行き詰まり期に製造業を中心にアメリカの大企業は国際競争力を弱め、 1974年から1984年にかけて大企業は雇用を150万人減らしました。この時期にハイテク部門を中心とした産業構造の転換が起き、これに欠かせない中小企業の経済社会的な役割が見直されるようになりました。

 このことに関して、米国中小企業庁訪問の際に経済分析官が、「1980年代にアメリカ人はマインドシフト(意識の転換)を経験した」と述べたことが印象的でした。曰(いわ)く「アメリカ人は、小さいものを好むようになってきた。大企業、大きな政府、大きな労働組合が嫌いというのが今のアメリカ人。銀行も大銀行じゃなく地方銀行を好む。今でも6000行の銀行がある。家族経営など顔が見える関係を好むようになった」と。中小企業が再認識され、企業家精神を復興させようという国民的合意のようなものが生まれたようです。

 そういえば、日本でも80年代にアメリカから「バイタル・マジョリティ」(活力ある多数派)というキーワードが伝わってきたことを思い出します。当時、同友会の中でも、「中小企業は活力ある多数派なのだ。日本経済を支えているのは我々なのだ」という熱い議論を交わしていました。

 それから20余年を経て、中小企業の役割を高く位置づけた中小企業憲章が閣議決定されました。日本でも、マインドシフトの奔流を生み出す緒に就いたと言えるでしょう。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2010年 12月 15日号より