大企業と中小企業が協働

【中小企業のCO2削減努力を活かす!国内クレジット制度活用のすすめ】(2)

 2008年10月から12月にかけて本紙に連載した排出量取引の「徹底理解」の最終回で、「中小企業にとって国内排出量取引とは?」という記事を掲載しました。今回は、この制度が中小企業にとって大きなチャンスであることを強調したいと思います。今号と次号で、制度の趣旨を解説します。

 国内クレジット制度には、大きく2つの目的があります。

(1)これまで法律や制度の谷間にあった中小企業等や農林水産業、民生業務、家庭等の省エネ活動を後押しするため、努力の成果を政府が認証し、金銭価値のある「クレジット」を交付する。
(2)大企業等が中小企業等に交付されたクレジットを買い上げ、環境自主行動計画の数値目標達成に用いる。

 「環境自主行動計画」というのは、業界団体としてCO2等の排出削減目標を掲げ、政府の京都議定書目標達成計画達成に協力することを表明した団体が作っているアクションプランです。この環境自主行動計画に参加している企業が「大企業等」です。参加していない企業を「中小企業等」と呼び、中小企業基本法の定義とは意味が全く違い、企業規模の大小とは無関係です。政府と協定を結んでいる業界団体は、数え方にもよりますが、100団体以上になります。

 例えば、国内クレジット制度利用第1号で有名になった東京大学は、国立大学法人の団体として環境自主行動計画を持っていないため、都内で最大級の排出事業者であるにも関わらず「中小企業等」と定義され、「大企業等」に相当するローソンにクレジットを売却することができた訳です。

 この制度は、上記2つの目的を同時に果たすため、最初から「中小企業等」と「大企業等」が協働してCO2削減プロジェクトを組成することが義務付けられています。削減できたCO2は、政府の指定した審査機関が確認したうえで、クレジットが発行されます。そのクレジットは直ちにパートナーの大企業等の保有口座に登録され、環境自主行動計画の数値目標達成に用いられます(昨年からこの規制は緩和され、転売目的でクレジットを購入することも可能になっています)。省エネ設備投資を行って削減に取り組んだ中小企業等には、後日、クレジット売却代金が振り込まれることになります。

 東京都の中小企業クレジットのように、中小企業等が単独でプロジェクトを計画し、削減成果を自由に市場で売れる仕組みになれば、もっと国内クレジット制度も活性化するような気もしますが、クレジットの取引市場が存在しない日本では、クレジットの買い手を最初から想定しておくことは、京都議定書目標達成という大きな目的のためには、やむを得ないのかもしれません。

 向井征二/(株)日本環境取引機構代表取締役(愛知)(元・経済産業省「中小企業等CO2排出削減検討会」委員)

「中小企業家しんぶん」 2010年 9月 15日号より