人工雷できのこ増産~(株)グリーンテクノ 社長 田中 實氏(神奈川同友会)

落雷できのこが増える

田中社長

 昔から、「雷の落ちた場所にはきのこが生える」と言い伝えられてきました。雷と農業との縁は深く、稲妻とは「稲の夫(つま)」が語源だとする説もあります。

 そうした伝承を元に、1980年代頃から人工の雷を使ったきのこの研究が九州大学や岩手大学などで行われてきました。しかし、開発された雷発生装置は大型で移動が難しかったため、普及にまでは至りませんでした。

 雷によって、きのこの増産が図れることは経験知から得られたことで、日本全国にこうした言い伝えが残っていますが、まだ十分に科学的に明らかにされていることではありません。現在では、外部からの強い刺激で菌糸が切れ、きのこの生命維持装置が働いて成長を活発化させるのではないか、との説が有力視されています。

静電気発生装置を応用

 (株)グリーンテクノ(田中實社長、神奈川同友会会員)では、昨年7月、愛媛県からの問い合わせをキッカケに開発を進めてきました。

 同社はもともと、静電粉体塗装機の受託生産会社です。この塗装機製造技術をいかし、静電気用電源の技術開発をする中で、その応用範囲を広げてきました。

 例えば発泡スチロールに短い繊維を植毛する装置の開発や素材を分別させるなど、静電気を利用した技術の開発を行ってきました。

 静電気を取り除くメーカーは多くありますが、静電気を発生させる会社としては珍しい存在です。

 そうした折に、愛媛県中予地方局から小型静電気発生装置の開発の相談がありました。詳しく聞くと、連絡してきたのは農業普及を担当する職員で、シイタケ栽培の経営改善を目指しているとのことでした。

 田中社長は「はじめから『できない』とはいわない」がモットー。通常業務の間にいろいろ試行錯誤、1カ月後には小型試作機を完成し、愛媛に持ち込みました。愛媛の農家での実験では、3~4回きのこが発生したあとの原木に電気刺激を与えることで、1・5から2倍の増収が確認されたとのことです。

 その後、原木栽培だけでなく、菌床栽培でも、菌床の浸水後1~2日目に印加(電圧を加えること)することで約1・6倍の収量を得るという実験結果も出ました。

小型で、可搬使用性に優れ

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 (株)グリーンテクノ社製の高電圧火花放電式電気刺激電源は出力電圧が100キロボルトと高いものの、電流は80マイクロアンペアと小さく、消費電力は50ワットと少ないのが特徴です。

 今まで大学等で研究使用していたきのこ用高電圧機器は、直接電極を接触させて高電圧を印加する方式のものでした。

 今回開発した電源は、電極を離して火花放電ができ、使用者が印加状況を目で確認しながら作業ができます。また、小型で軽く可搬性があるため、使用場所が限定されず、電圧印加を手元でコントロールできるなど、使用性が優れている点で画期的なものです。

 シイタケに向けてバチバチッと火花を放つ様子は見ごたえがあり、各テレビ・ラジオで報道された回数は10回を超えました。

 この開発にあたって、愛媛県と共同で現在特許申請中です。

産学官の農商工連携

 取材で訪ねた日は、受注第1号機が出荷される記念すべき時でもありました。田中社長は、きのこのことを知りつくした職人技とのマッチングを重視しています。引き合いは全国のきのこ業者や、研究機関から届いています。なかには和歌山県の同友会会員のきのこ業者からのものもありました。

 先日岩手大学で行われた研究会に田中社長が行った折には、かつてナメコ用に高電圧装置を開発した群馬同友会の会員にも出会い、今後共同での開発にも意欲をみせています。新しい産学官の農商工連携の動きが出てきています。

 今後、さらに開発しなければならない課題はまだ多くありますが、「現在の基本形を生かしながら、さらにお客様と心の通う商品づくりに向けて、安全面や、幅広い種類のキノコへの対応など研究していきたい」と、1つひとつクリアしていく覚悟を固めている田中社長です。

会社概要

設立 1969年
資本金 2600万円
社員数 28名
業種 小型高電圧電源を利用した応用設計・製造・販売、受託生産
所在地 神奈川県川崎市高津区子母口438
TEL 044-755-2431
http://www.greentechno.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2010年 12月 25日号より