地域文化を支える中小企業家たち

地域の経済や雇用を支える中小企業家は、地域文化を支える重要な役割も果たしてきました。本業としてだけでなく、地域の祭の担い手だったり、地域の子どもたちの安全に常に気配りし、学校と連携しながら、子どもたちに生きる喜びを伝え、地域の文化を伝承し、人と人との絆を結びつけながら、郷土の文化を守り育て、新たな歴史を刻み続けている中小企業家たちが、各地で活躍しています。こうした地域文化を支える中小企業家たちの思いを、新年から随時連載していきます。

映画を通して沖縄の歴史、文化、今を発信

末吉氏

(株)シネマ沖縄 代表取締役 末吉 真也氏(沖縄)

 私たち(株)シネマ沖縄は、世代わりする沖縄の歴史、文化、科学、産業などを題材に、1973年の設立以来37年間でおよそ600作品を手掛けてきました。

 沖縄には映画になる魅力ある要素やテーマがたくさん埋もれていて、特に歴史や民俗には華やかさやノスタルジックな秘話がありますが、解明されていないものも含めて、世界遺産の琉球王国関連遺産群や一級の資料群にまつわる古い時代の人々の営みが、私たちの創作意欲をかき立てています。

 このような郷土の映画製作は、激しく変化する地域社会の中で役割はさらに増していると思います。それは、人として生きていくため必要な愛情や道理、法則が昔から息づいていて、人々の暮らしや営みには欠かせないものであると考えているからです。

 今年度は、その郷土の歴史にドキュメンタリー映画の製作で挑みました。映画「浦添ようどれ よみがえる古琉球」がそれです。「浦添ようどれ」という独立国家琉球の王陵を通して、沖縄史のなかで一番華やかで活気にみち、そして悲しみを秘めた古琉球といわれる時代を描きました。

 琉球の夜明けともいうべき三山鼎立のグシク時代、尚巴志による琉球統一、華麗な王国を形成する第二尚王統の時代、そして薩摩藩の琉球入りによって日本の幕藩体制に組みこまれ、実質的な王国滅亡までを、考古学的事実ばかりでなく、祭事やおもろ、さまざまな古文書や絵画資料を駆使して時に劇画表現も交えて描いたのです。

 この映画は、全国の映像文化を顕彰する「映文連アワード2010」(昨年12月に授賞式)において、今の沖縄を考えるうえで重要なメッセージが含まれているとして、本土の特に若い人に観てもらいたいと評価を受け、地域文化部門の優秀企画賞を受賞しました。

 映画を通して、そこにある自然や歴史を貴重な資源として、あるがまま創造的に生かして「文化による社会創造」ができるよう願い、製作してきました。

 これからも映画を通して沖縄にある貴重な資源に注視し掘り下げ、人々の生きがいを生み出し、新たな映像ソフトを提供して地域文化創造に寄与していきたいと考えます。また、歴史的、文化的に永久保存すべきアーカイブズとして、映像による未来への遺産としても記憶に留まることを期待しています。

TEL:098(857)5533
http://cine-oki.jp/

「家族の団欒」届ける郷土料理「きりたんぽ」

佐田氏

(有)佐田商店 代表取締役 佐田 博氏(秋田)

 (有)佐田商店は明治40年(1907年)創業で、今年で104年目になります。養鶏業から始まり、鶏肉を中心とする食肉販売店へ、現在は秋田の郷土料理「きりたんぽ鍋セット」を販売しています。

 「きりたんぽ」づくりは、料亭から製造を委託されたことがきっかけで、1950年から始まりました。「きりたんぽ鍋セット」の販売は、1982年からです。

 きりたんぽ鍋は、現在の秋田県北部地域で生まれ、古くから食べられてきた秋田の郷土料理です。ぜいたくな食材をそろえた「ハレの日」の鍋物でした。このきりたんぽ鍋を一家がそろって食べる時、そこには家族の笑顔と希望にあふれた会話があったはずです。

 当社では、きりたんぽを本来の形で提供するとともに、県外の人々にも、その味と魅力を伝えられるように工夫を重ねています。

 「きりたんぽ鍋セット」には、きりたんぽのほか、比内地鶏の生スープ、比内地鶏の肉、「だまこもち」、セリ、ササガキしたゴボウ、舞茸、ねぎ、糸こんにゃく、 保冷剤代わりに凍らせた秋田の水を入れています。

 きりたんぽ本体は、全て手づくりです。手づくりでなければ出せない味があり、伝えられない思いがあると考えるからです。

 材料にもこだわっています。きりたんぽやだまこもちの原料となる米は、生産農家と契約栽培し、減農薬など作り方も指定。比内地鶏は、県からブランド認証を受けた比内町の生産者から仕入れ、165日以上放し飼いされたものです。

 水は、秋田県の鳥海山の麓(ふもと)で取水された酒蔵の仕込み水を使っています。水までセットに入れているのは、水が違えば料理の味も変わってしまうからです。

 きりたんぽを食べてくださった方々に、家族や幼馴染み、育った町の人々の記憶を思い起こし、故郷や周りの人々への気持ちを新たにしていただくことができるのではないか。それが、きりたんぽの力であり、故郷の料理が持っている力、本来の魅力なのではないでしょうか。

 「おいしかった」「ありがとう」「秋田を思い出した」など、お客様からの声に触れるたびに、私たちは、その確信を深くし、きりたんぽづくりに励んでいます。

TEL:018(845)0755
http://www.satanokiritanpo.com/

「中小企業家しんぶん」 2011年 1月 5日号より