【アメリカ視察報告】(4)(最終回)存在感が大きい地域の中小企業

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 今回の視察では、視察の先々で米国経済の困難な状況が語られたことが印象に残りました。懇談した何人かの経済専門家は、景気の先行きで「2番底」の可能性を示唆しました。いっこうに下がらない失業率や経済不振の責任がオバマ政権の政策にあるとする批判が多く聞かれました。

 今回の視察の時点では米国議会の中間選挙が目前に迫っており、ホテルでテレビを見ていると、選挙の対立候補がいかにひどい候補であるか、といった日本では考えられないネガティブなCMが大量に流されていることに驚きました。オバマ政権は格好の標的にされていました。

 しかし、中小企業政策に関しては、オバマ政権の政策を評価する声も聞かれました。例えば、連邦中小企業庁の資金調達支援制度では、政府のローン保証率は75~85%ですが、オバマ政権の米国再生・再投資法(2009年2月成立)により、保証率が90%に引き上げられ、手数料も減免されています。「小企業がお金を借りられるようにしようという政府の努力は助かる」(ニューヨークの中小企業育成センター、デビットソン所長)との声も聞かれました。

 2009年9月には中小企業雇用信用法が成立し、総額300億ドルの中小企業貸付ファンドの設立や輸出促進のための新たな州政府補助金の設定などきめ細かな施策が進められています。

 今回の視察を中小企業政策にしぼってまとめると、次のような感想をもちました。

 第1に、「もう1つのアメリカ」が存在することに新鮮な感動を覚えたことです。世界に覇を唱える米国政府や巨大金融資本のウォールストリートと違うメインストリート(地域)の中小企業の大きな存在感とフロンティア精神が健在であることを再認識しました。昨年の一般教書演説でオバマ大統領が「起業家が夢に賭けた時や、労働者が自営を決意した時、中小企業は生まれる。これらの企業は、真の気骨と決意を通じて不況を脱し、成長しようとしている」と熱く語っていますが、企業家精神はアメリカの国是とも言えるでしょう。

 第2に、連邦中小企業庁の権限の大きさと独立性の強さにも驚かされました。本連載の第1回で概観したように、真に中小企業にとって役立つ機能を果たしているかどうかの自己チェック機能をもっていることなど、日本が学ぶべきことが多々あります。

 第3に、「いつでもどこでも誰でも」利用できる充実した政策実施体制も参考になりました。全米に約1500カ所のワンストップ型の起業家育成・経営支援の拠点が展開され、日常的に機能していることに深く学ぶ必要があります。

 第4に、「不利な立場にある人々」への配慮とその社会的合意があることです。しかも、連邦中小企業庁の女性所有企業部の担当官が、「女性所有企業は規模は小さいが不況期にも雇用を維持し安定的であり、それが政策重視の根拠である」と強調したように、不利への配慮だけでなく、政策推進の経済的合理性を理論的根拠としていることも印象に残りました。

(終)

中同協政策局長 瓜田 靖

「中小企業家しんぶん」 2011年 1月 15日号より