振興条例推進活動で連携活動を強め、仕事・市場づくりへとつなぐ―中同協政策局長 瓜田 靖

 2月9日に開かれた中同協企業連携推進連絡会では、企業連携を仕事づくり、地域づくりの核にしていくことを確認するとともに、中小企業振興条例制定推進運動が、地域連携による新たな仕事づくり、地域づくりにつながっていくことを、中同協政策局長の瓜田靖氏が報告しました。その報告概要を紹介します。

地域産業ビジョンづくりを進めるチャンス

 昨年11月に宮崎県の口蹄疫被害の中心地の川南町、都農町を視察し、宮崎同友会の振興条例制定推進に向けた学習会に参加してきましたが、振興条例を旗印に地域経済の復興に取り組む行政も含めた地元の熱い思いに感動させられました。

 中小企業憲章が閣議決定(2010年6月)された今、地域での中小企業の仕事づくりを推進する振興条例制定や地域産業ビジョンづくりを進めるチャンスです。事実、最近は地産地消や地域資源活用を前面に立てた振興条例が増加傾向にあります。

地域の新しい仕事づくりと振興基本条例

 中小企業振興基本条例を制定する目的は、(1)地域の産業の活性化を図る、(2)産業に携わる者の役割を明確にする、の2つです。条例制定の意義は、自治体が地域の産業を振興することを内外に明らかにして覚悟を示し、地域で中小企業振興と地域振興の共通認識、旗印を持つことにあります。

 地域の新しい仕事づくりが条例にどのように位置づけられ、取り組まれているか、「財の域内循環・域外獲得・域内連携」(産消協働)の理念を掲げた釧路市を中心に紹介します。

 「釧路市中小企業基本条例」(2009年)前文は、次のようにうたっています。

 「(略)中小企業は雇用の主たる受け皿であるばかりでなく、その迅速な経営判断と行動力をもって域内に財を循環させる働き手として、すぐれた素材と技術をもって優位性のあるサービスを生み出すことで域外から貨幣を運んでくる稼ぎ手として、地元の人材を育成し、様々な団体と連携して地元を育てるまちづくりの担い手として、地域情報の送り手として、地域経済活性化の中核的な役割を担っている。

 一方、市民は、消費者として直接間接に中小企業の顧客となり経済循環の一翼を担っており、中小企業と互恵関係にある経済主体であるととらえることができる。そこで、域内経済の状況に等しく影響を受ける企業と市民と行政が、地元への愛着と郷土への誇りを胸に、地域経済活性化の核である中小企業の振興のための役割を分担しつつ様々に連携し、その結果として財とサービスを生み、域内に循環させるとともに域外からの財を獲得し、高齢者が安心して暮らせ、若者が挑戦する機会に満ちたまちとなるよう、釧路市がひとつとなって、先人が築いた礎に我々と我々の子孫の努力をさらに重ねながら釧路市を幾世代にもわたって引き継ぎ、発展させるべく、基本的な理念と方向性を示すため、この条例を制定する」。

地域活性化に向け地域全体が一丸となる旗印

 釧路市産業振興部商業労政課課長の高木亨氏は、「理念条例を作って具体的にどうなるの?」との懐疑に対し、市民、企業、行政が当事者意識を高め、地域経済活性化に対して地域全体が一丸となって取り組むきっかけにできるといいます。さらに、その基本理念に釧路市の個性を反映させようと、「域内循環」「域外貨獲得」「域内連携」の3つの柱から成り立つ「産消協働」という考え方を提唱します。

 市民が地域を意識するかしないかで域内に循環する財が大きく変わること、企業にとっては「より安く」以外に、「より環境に優しい」など、域内仕入によって消費行動に影響を与えるメリットをどう開発するかが課題であるとしながら、「産消協働」は漢方薬のように、少しずつ考え方や行動を習慣化させることで雇用創出など地域の体質改善の効果が現れてくるものだといいます。

 条例では「地域経済円卓会議」を設置することになっていますが、専門家だけでなく幅広い層の人たちを柔軟に議論に取り込もうと、円卓会議ネットワークの仕組みを考えました。地域経済活性化を主体的に考える円卓会議を複数立ち上げ、ネットワーク化し、ネットワークに属している円卓会議からの提案は行政としてもきちんと受け止める。対等の立場で意見のキャッチボールを行い、現実的な提案は施策に結びつけていくというものです。

「受注機会の増大」に特化した条例も

 地域産業活性化のため、中小企業の「受注機会の増大」に特化した事例としては、「新潟県中小企業者の受注機会の増大による地域産業の活性化に関する条例」(2007年)があります。

「(目的)第1条 この条例は、中小企業者の受注機会の増大による地域産業の活性化に関し、基本理念を定めるとともに、県の責務等を明らかにすることにより、中小企業者が供給する物品及び役務並びに行う工事に対する需要を増進する施策を推進し、中小企業者の経営の安定及び向上を図り、もって地域産業の活性化及び県民生活の向上に寄与することを目的とする」。

 このように、中小企業等が開発した製品等について、自治体の機関が試験的に発注し、また使用後は当該製品等の有用性を評価し、官公庁での受注実績をつくることにより、販路の開拓を支援するなど、自治体内企業の育成を図るための制度として、「トライアル発注」制度が注目されています。都道府県と市町村に導入されており、県レベルでは41都道府県に制度があります。2007年からは「トライアル発注全国ネットワーク」が結成され、販路拡大の支援などが取り組まれています。

 このほか、「産学官民の連携」を初めて掲げた事例として、2007年制定の「千葉県中小企業の振興に関する条例」があります。

連携力の強化と「小さな市場」の開拓

 2010年の中同協第42回総会議案では、産業のあり方が転換期にあり、中小企業自ら新たな事業領域を作っていくことが重要とし、次のように取り組み方向を示しています。

 「中小企業の連携力を強化し、地域経済・産業の自立化を追求すること」「まず、自社の周りに小さくとも堅実な市場をつくり、不況の打撃を緩和する領域を確保することが大事」「地域内循環や多様な地域資源を活用した活性化や仕事づくり、創業を促す環境をつくること」。

 そのためには、「行政や支援機関、金融機関、農林水産畜産業者、大学など教育研究機関、市民等と中小企業の協働を促進し、地域資源と中小企業を軸にした地域経済を構築する」「この協働では、中小企業振興基本条例の必要性が鮮明になります」と強調し、「市場が縮小する傾向にあり、さらに多様化、細分化も進んでいます。同友会などの同業種・異業種の仲間と知恵を交流し、連携を強める事で、大企業が手を出さない小さな市場を開拓し、地域になくてはならない中小企業となりましょう」としています。

仕事づくりと地域連携での姿勢と教訓

 仕事づくりと地域連携を進めるにあたっては、同友会運動でこれまで取り組んできた企業連携や仕事づくりから、次のような姿勢と教訓が指摘できます。

(1)地域とともに歩む姿勢を座標軸とした経営のあり方を探求。地域の繁栄なくして自社の存続はありえないという認識を深めている。

(2)自社だけの利益追求でなく、農商工連携や6次産業化(1次産業×2次産業×3次産業)のように地域資源をつなぎ合わせ、地域産業を複合化することで、付加価値の高い仕事づくりと魅力ある地域づくりの実現をめざしている。

(3)狭い地域の差別化にこだわるよりも、事業への参加者・協力者を近隣地域(さらには全県)にひろげ、地域全体を巻き込むことで、新しい市場をつくり、地域ブランド化をめざしている。

(4)生産者の思いが消費者・ユーザーに直接伝えられる仕組みをつくるなど「顔の見える」関係づくり、信頼関係づくりを重視。共感してもらえる発信能力を高め、生産者と消費者の交流の場づくり、さらには消費者が生産や商品開発に参加する機会を設け、楽しめる仕事づくりをめざしている。

(5)地域で生活の歴史と文化を掘り起こして、文化を市場に提案し、文化で仕事をつくっている。その文化を「待ち望んでいる人がいる」という確信のもとに、地域で消費者を発見し、顧客としている。

(6)「地域づくりは人づくり」の考え方で、地域に学び合いの場を設けて公開し、地域資源や生活文化への理解を深め、人材の流出を防ぎ、地域とのかかわりの強い人材を育成している。

(7)若い人が誇りを持って働ける職場づくりや、高齢者や障害者に働く場を提供するなど、地域の老若男女が希望を持って働き生活できる場と機会をつくる。

 以上のように、条例推進活動で地域産業ビジョンづくりを地域連携で強めていくことは仕事・市場づくりにつながっていくのです。

「中小企業家しんぶん」 2011年 3月 5日号より