価格と取引関係 第1回

【同友会景況調査(DOR)2010年特別調査の結果から】

 中同協企業環境研究センターが昨年11月に実施した「価格と取引関係 特別調査」の結果がこのほどまとまりました。2008年のリーマン・ショックで激しい景気の落ち込みがあり、その影響は今も続いています。調査は、その原因を探る目的で実施されました。6年ぶりに行われた特別調査は、過去最大規模(回答数4099社、全国会員の約1割)の回答をえました。その概要を3回に分けて紹介します。

全業種で販売単価下落の傾向

 今回の特別調査は、(1)販売単価の下がっている(上がっている)原因、(2)仕入単価の変化状況と主たる決定方法、(3)仕入・販売に関する変化、(4)取引関係の変化を探るものです。回答企業の内訳は表1のようになっています。

デフレ不況下のコストダウン圧力

 リーマン・ショック以降の販売単価は業種を問わず低下傾向にあり、仕入単価の低下もDORでは2008年4~6月期に仕入単価DI(「上昇」― 「下降」割合)は74を記録し、2009年10~12月期にはマイナス(以下、△と表記)21まで急降下しています。実に1年半で95ポイントの変動があったことになります。売上・客単価DIも5→△50と同時期に急降下しています(図1)。今回の特別調査でもこの傾向は業種を問わずあらわれ、販売単価は低下傾向にあります。

 まず、販売単価DI(「上がっている」―「下がっている」割合)を見ていきます。全業種でみて△51となっています。4業種のなかでもっともDI が低いのは建設業で△59となっています。規模別では20~50人未満で△62と最悪値をとるのに対し、5人未満規模では△39と10人規模を境に二極に分かれています。地域別にみると、北陸・中部(△59)を境に以東はマイナス50台、以西はマイナス40台と日本列島の東西によって格差がでています。

 この間の景気の急下降とそれに続く低迷は、販売数量減とそれに伴った販売単価の下落が生じていることです。その結果として売上高が落ち込みました。2008年と比較した売上高の増減を聞いています。全業種では55・1%「減った」と答えていますが、製造業では65・2%が「減った」と答えています(図2)。10%の開きがあります。今回の不況は全業種にわたっているとはいえ、製造業に集中的に打撃を与えたことが見てとれます。

 しかもこれを地域別でみるともっとも不況色がでているのは北陸・中部で、62・9%が「減った」と回答しています(図3)。このように製造業と北陸・中部に偏った売上高の変化を呼び込んだのは、たんに循環的不況というだけではなく、日本の産業構造の歪(いびつ)さにも原因があったことをにおわせています。

 もっとも、同友会会員企業は直近の決算では「減収減益」企業は39・5%に止まり、増益企業(「増収増益」+「減収増益」)は33・5%にものぼることは、日頃からの経営体質・財務体質の強化、経営革新が一定程度進んだ結果として注目されます。

競争激化が販売単価下落の要因

 販売単価が下がっている理由は何か。もっとも多かったのは「競争相手の単価や世間相場に追随した」というもので49・8%を占めます。次いで「顧客や発注元からの要求を受け入れた」が33・9%となっています(図4)。追随をどうみるかで解釈は異なりますが、この場合は競争が激しく、追随しなければ仕事がなくなる、との恐怖心のあらわれと読むのが自然でしょう。

 それでは販売単価はどのくらい低下したのでしょうか。全業種でみると5~10%下がったとする企業が最も多く27・8%を占めます。加重平均をとってみると、12・5%下がっていることになります。業種では製造業は5~10%が多いものの20~30%、30%以上とするものも10%以上いて(加重)平均では13・3%と最も低下割合が高くなっています。規模別では5人未満層で低下割合が高くなっています。また地域別でみると近畿でもっとも低下割合が高くなっています(表2)。

 次に各業種で主要販売先への販売価格の決定方法がどうなっているかをみます。そのために、主要販売先はどこか聞いています(複数回答)。ここから分かるのは、大部分が一般消費者に依拠していることです。とくに建設業では53・9%が一般消費者を主要販売先とし、27・9%は官公庁となっています。一方製造業では大手メーカー39・2%、中小メーカー37・8%となっていて、他業種とは販売先が異なることが分かります(図5)。

 こうした業種の特性を考慮したうえで、主要取引先への販売価格の決定方法をみます。全業種では49・3%が「見積り合わせ」としています。とくに製造業では66・1%が「見積り合わせ」としていますが、「当方の指値」も18・9%にのぼります。建設業では「見積り合わせ」が51・7%でもっとも多いのは同様ですが、「先方の指値」が20・6%となっているのも見逃せません。

 流通・商業では「見積り合わせ」が43・1%と最大なのは変わりませんが、その比率は他業種に比べ少なくなっていて、「当方の指値」が35・4%と多くなっています。一方サービス業では「見積り合わせ」(38・4%)より「当方の指値」(39・9%)が多くなっているのが特徴です。

見直し迫られる日本経済

 このようにみてくると、リーマン・ショックによる売上や価格に対する影響は、とりわけ製造業に大きな影響を与えてきたことがはっきりしてきます。地域的には関西、北陸・中部などの工業地帯に影響が強く出ています。

 この結果は、日本の製造業が一般機械、電気機械、自動車といった業種に特化して発展してきたことと無関係ではありません。日本経済が外需依存で、しかもその輸出の中身は自動車、家電、精密機械など高機能・量産品に特化し、その市場はアメリカ頼み、しかもこの3業種で輸出に占める割合が61%を占めるといった歪な産業構造に問題がありそうです。1度日本経済のあり方を考え直す必要がありそうです。

(次号につづく)

「中小企業家しんぶん」 2011年 3月 5日号より