地域の絆としての協同

協同組織と中小企業の新たな連携を

3月初旬、協同金融研究会第100回定例研究会記念シンポジウムに参加しました。同研究会は、信用金庫や信用組合、労働金庫、農業協同組合の4つの業態の協同組織金融機関の研究会です。

 シンポではまず、「協同組織金融機関への期待と国際協同組合年」と題して、記念講演を経済学の泰斗、宇沢弘文氏(東京大学名誉教授)が行いました。宇沢氏は、ローマ法王、ヨハネ・パウロ2世の「レールム・ノヴァルム(回勅)」(1991年)を出す際に助言。ソ連崩壊の直前に出されたこの回勅は、「社会主義の弊害と資本主義の幻想」と題され、資本主義と社会主義という2つの経済体制を超えて、すべての人々の人間的尊厳と魂の自立が守られ、市民の基本的権利が最大限に確保できるような経済体制は、どのようにすれば具現化できるのか、という問題提起でした。

 これに応えて、宇沢氏は社会的共通資本という解を提起します。社会的共通資本は、山や森、海、水など自然環境、公共的交通機関や上下水道、電力・ガスなど社会的インフラストラクチャー、そして教育、医療、金融などの制度資本の3つの構成要素からなります。一言で言うと、人間がゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、魅力ある社会が円滑に機能する協同的な営みとして管理、維持し、次世代に伝えていくべきものとのことです。宇沢氏は、社会的共通資本の管理、維持について重要な役割を果たすのが協同組合の制度であるとし、協同組織金融機関の役割と使命に大きな期待を述べました。

 次にシンポでは、「協同組織金融機関はどう特性を発揮するか~広域化・規模拡大と会員(組合員)との絆をどう築くか」と題して、4つの業態ごとに事例・実践報告がありました。

 ここでは、規模拡大・広域化は、合併・再編など経営環境の変化に伴う時代の要請であるものの、それが「絆の希薄化」にならない経営は可能であるとする報告が印象的でした。例えば、朝日信用金庫では、協同組織理念教育を重視し、コミットメントの深さ・濃さを追求するコア顧客と地域利便の幅広い供給を指向するマス顧客に分けて、狭域高密度経営を展開することが広域化の中でも可能とします。

 興味深かったのは、山口県の周南農業協同組合の報告。同組合は、人口約26万人の地域ですが、高齢化に伴い正組合員の減少に歯止めがかからないものの、地域に開かれた協同組合として地域の人すべての組合員化を指向し、現在の組合員総数は約3万4000人。好調な8カ所の直売所や福祉事業への参入、ポイントカードの発行など業容は拡大しています。目指すは「地域協同組合」。地域の中小企業や商店街との連携が今後の発展の鍵と思われます。

 来年、2012年は国連の定めた国際協同組合年。宇沢氏は、その日本の実行委員会の顧問ですが、協同組合年に向けて協同組合憲章を制定しようという動きがあります。中小企業憲章制定に刺激され、中小企業憲章を参考に協同組合憲章の制定を目指しているそうです。協同組合・組織と中小企業との地域での理念的実践的な新たな連携が期待されます。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2011年 3月 15日号より