「中小企業憲章白書」化への期待

『2011年版中小企業白書』を読んで

 今年の中小企業白書(以下、白書)が2カ月遅れで閣議決定されました。例年であれば4月下旬に公表されますが、3月に東日本大震災が勃発したため、内容を大幅に書き直し、遅延したものとみられます。

 白書の副題タイトルは、「震災からの復興と成長制約の克服」です。内容を一言で言うと、「我が国の経済社会を支える中小企業の震災からの復興を早急に行うとともに、我が国経済が持続的に成長するために、起業・転業、労働生産性の向上、国外からの事業機会の取り込みにより、中小企業が更なる発展を遂げていく」とまとめられます。

 今回の白書の注目点の第1は、東日本大震災の中小企業への影響を綿密に分析していることです。東日本大震災は、地震、津波、原発、電力供給制約などが複合的に関連して中小企業に広範かつ甚大な被害・影響を与えました。また、被災地域から自動車部品などの部品の供給が滞ったため、全国的な影響が広がったことも分析されています。

 注目点の第2は、中小企業憲章の閣議決定後の初の白書として、中小企業の意義や役割の重要性をデータで裏付け、産業や生活の基盤を中小企業がどのように支えているかを示していることです。例えば、中小製造業は、付加価値額の約5割を生みだしており、特に、食品製造業、金属製品製造業、生産用機械器具製造業では、中小企業が多くの付加価値額を生み出していることなどが示されています。

 中小企業憲章が存在する現在、これからの白書を「中小企業憲章白書」化することを提案したいと思います。例えば、白書の一部を中小企業憲章に関する分析に充て、憲章の「行動指針」の8項目別に政策の進捗状況、到達点を把握できる内容にしたらいかがでしょうか。

 これまでの白書は、「中小企業の動向」分析と副題のテーマにしぼった分析が特徴でしたが、もう1本の柱として「行動指針」の8項目の進捗状況分析を入れることにより、中小企業の状況をより系統的に理解することができると考えます。

 注目点の第3は、中小企業を経済成長の源泉と位置づけていることです。中小企業憲章では、「経済活力の源泉である中小企業」という記述がありますが、白書では「活力」から「成長」へより踏み込んだ表現になっています。

 ここでは、起業の実態などのほかに、今回は転業の実態も解明されており、興味深い内容になっています。特に、1997年から2007年までの業種転換の全体像を現す分析は注目されます。毎年2~3%の企業が業種転換を行っているとしています。

 なお、「夏期の電力需要を抑制するための中小企業対策」として、東京同友会作成の「中小企業のための節電対策簡易マニュアル」が取り上げられています。

 また、今回の白書の企業事例(68社)では、(株)大橋製作所(東京)はじめ、岩手、宮城、長野、滋賀、大阪(2社)、沖縄の会員企業が8社紹介されています。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2011年 7月 15日号より