東日本大震災から9カ月時点での経営への影響について

震災対応を社内で教訓化し、非常事態への対応力向上を!

【同友会景況調査(DOR)2011年10~12月期オプション調査より】

 中同協・企業環境研究センターでは、2011年10~12月期の同友会景況調査(DOR、867社回答、平均正規従業員数37・3人)のオプション項目として、東日本大震災から9カ月時点での経営への影響について調査しました。その結果を紹介します。

(中同協事務局員 中平智之)

商品・サービスが動きだし、震災前を上回る水準に回復

 中小企業をめぐる景況は震災前を上回る水準まで回復してきました。2011年10~12月期DOR調査では業況判断DI(「好転」―「悪化」企業割合)で△2となりリーマン・ショック前水準・震災前水準に回復しました。売上高DIや経常利益DIもそろって改善したほか生産性・雇用に関する指標も改善しています。大震災からの復旧需要、代替需要、得意先の正常化などを要因として、これまで止まっていた商品・サービスが動き出して回復につながっている面があります。中小企業をめぐる景況は9カ月間かけて震災前水準に回復してきました。

図1 売り上げが減った場合の原因―「円高の進行」は6カ月目から

発生直後、影響はひろく全国に及んだ

 同友会では東日本大震災発生直後の2011年3月28~30日に、DOR補足調査として「震災後の景況への影響に関する緊急調査」を実施し被災地を除く13道府県から876件の回答を得ました。その結果は、震災前と比べた売上状況は既に34・1%が減少を示し、さらには震災前の想定に比べた4~6月期の受注・販売見通しは59・5%の企業で悪化するというものでした。悪化理由は「仕入先が被災地にある」が49・2%と最も多く、「被災によって流通経路が断たれた」が31・6%、「顧客が被災地にいる」が28・6%と続きました。この調査の回答は西日本地域の企業が多く、大震災の影響が広く全国に及ぶことが分かりました。取引の網の目が全国に広がっていることが改めて明らかになると同時に、さらに震災の影響が拡大する可能性を示す結果でした。

 震災発生から3カ月時点の4~6月期DOR調査では震災の影響の深刻さが浮き彫りになりました。売上高DI(「増加」―「減少」割合)が1から△15、業況判断DI(「好転」―「悪化」割合)が2011年1~3月期(震災前)の△3から△21へと大きく低下し、リーマン・ショック以降の回復が帳消しになった形になりました。売上減少の理由としては、(1)予約・注文減少、(2)サプライチェーン断絶による部品・資材等の調達困難、(3)物資不足による受注制限、(4)突然のキャンセル、(5)直接取引先の被災による取引減少、(6)原発事故の風評被害などが挙げられ、市場は縮小と混乱を極める事態となりました(図1)。

図2 大震災の影響の有無―「一時あった影響が消えた」は6カ月目から

売上は回復するも利益の回復には遅れも

 DORでは震災後から3カ月、6カ月、9カ月と経営への影響を調査してきました(図2)。3カ月時点の4~6月期調査では「影響がある」は57・5%と約6割にのぼり、この時期が全国の中小企業にとって影響がもっとも深刻な時期でした。その後、6カ月時点の7~9月期DOR調査では、サプライチェーンの急速な復旧を受けて生産・業況・採算が回復。「影響がある」は前回から約20ポイント減少して36・6%と4割を切りました。夏期の節電を乗り越えて秋にはようやく動き出した実感がもたれるようになってきました。そして震災から9カ月時点の10~12月期調査では多くの指標が震災前水準に戻り「影響がある」は25・7%にとどまりました。一時期は約6割の企業に及んだ震災の影響は9カ月かかって3割を切るところとなりました。「今はないが今後出てくる」は4~6月期には18・6%と危機感がありましたが、7~9月期の11・0%を経て10~12月期には7・8%と、事業を通した影響の連鎖はほぼ収束した状況に至りました。

 影響の剥落に対応した形で売上も回復してきました。大震災直後(1カ月以内)と比べた売上高DIは4~6月期に△25と売上減少企業が目立ちましたが、7~9月期にプラスの3、10~12月期には17となり、多くの企業において売上が震災前に回復する状況となりました(図3)。しかし原材料価格の高止まりや価格競争の激化があり、利益増加には直結していないことも特徴です。「3月11日東日本大震災の影響で部品、商品不足と購買力の低下で、2カ月間は売上げ、収益ともに減少した。その後努力の結果6~12月は売上げは増えたが、利益は伴わず、9月決算では売上増で利益減の結果となりました」(兵庫、分譲マンション設備管理)という声は、この9カ月間の中小企業の実態を典型的に示しています。

図3 大震災直後(1カ月以内)と比べた売上高DI

円高がもたらす影響に注視が必要

 さらに円高の進行が新たな問題として立ちはだかっています。2010年の10月に180円台後半に入った円高は、2011年の東日本大震災後にさらに進行して70円台に入り、10月31日には75円32銭の戦後最高値を更新するに至りました。日本政策金融公庫調査(「中小企業に対する円高の影響調査」5628社回答)によると、円高により「5%以上の減益」となる企業は29人以下企業で22・2%、30~99人企業で24・8%、100人以上企業で24・6%と、中小企業においても大企業と同様程度の影響が出ることが想定されており注目されます。

 5%以上の減益と回答した企業の円高への対応策では、製造業では「コストの削減」が67・5%と最も多く、次いで「高付加価値製品・商品への転換による競争力の維持」が27・1%、「国内での原材料・部品などの調達方法の見直し」が23・9%などの順となっています。

 そして2011年7月以降の円高によって海外展開は加速しているかという質問では、「強くそう思う」「そう思う」という企業は合わせて33・1%となり、「そう思わない」という企業の23・8%を上回りました。特に製造業で「強くそう思う」「そう思う」が43・6%に達しています(図4)。

 この調査が実施された2011年12月の後、2012年2月末から180円台に戻ったものの、この間の円高の要因となっている欧州金融危機は完全には回避されていないことから、円高の今後についても予断を許しません。大企業生産拠点の海外展開の加速や、取引先へのコスト削減圧力が強まることをリアルに想定しなければなりません。個々の中小企業においても、これらの状況への注視が求められます。

図4 2011年7月以降の円高によって海外展開は加速しているか
(日本政策金融公庫「中小企業に対する円高の影響調査」より)

震災対応を教訓化し、非常事態への対応力の向上を

 同友会会員企業の多くは震災発生後の経営環境の激変に対して、自社の立ち位置を明確にして社員とともに立ち向かってきました。2011年6月2日の中同協第4回幹事会は、「自社の社員と取引先、お客様を守ることを最優先にして行動しましょう」「長期化が予想されるため、早急に資金手当てを行い、方針を明確にして、常に社員と共有しましょう」「“国民や地域と共に歩む中小企業”の実践として取り組みましょう」など5項目の緊急アピールを発表しましたが、今日の歴史的円高状況の対応にあたってもこれらのスタンスは非常に重要です。震災対応の経験を教訓化して社内に蓄積し、非常事態への対応力を向上させることが求められています。

「中小企業家しんぶん」 2012年 3月 15日号より