危機の中で的確な判断ができる人材とは

釜石東中学校の防災教育に学ぶ

 3月11日は特別な日となりました。東日本大震災から1年。私たちは、この大震災の悲劇からさまざまな教訓を汲みつくし、今後の防災や危機管理に活(い)かしていく責務があります。大震災の後、震災時にどのように行動したのかを検証し、記録する取り組みが進んでいます。その中で、釜石東中学校の生徒たちが近所の小学生をリードし、570人全員が津波を逃れ、無事だったという事実は注目に値します。

 3月11日午後2時46分、地震発生時、同校では授業終了時刻であったため、生徒は学内のさまざまな場所に点在していました。

 大きな揺れの最中、校内放送を使って避難の指示を出そうとしても停電でできずにいましたが、多くの生徒は自らの判断で校庭に集合し始めます。教師が生徒に向かって「逃げろ」と叫ぶと、全生徒は予め決めておいた避難場所である介護施設まで走り出します。

 一方、隣の小学校では全校児童を津波に備えて校舎の3階に移動させました。しかし、中学生が避難していく様子を見て、すぐに校外避難を決断。児童たちは中学生のあとを追って介護施設まで走り始めます。

 介護施設まで走り切った小中学生はその場で点呼を取り、無事が確認されたように思われました。しかし、裏山の崖が崩れていることを発見し、「ここも危険だから、もっと高いところに避難しよう」と生徒は先生に進言します。教師はさらに高台への避難が可能であるか確認に走り、可能であることを確認。中学生たちは訓練したとおり、小学生の手を引き、高台までもう1度走り出します。

 午後3時20分ころ。学校の方角を見ると、10数メートルの高さの津波が両校の校舎を丸ごとのみ、介護施設も襲い、迫ってきます。

避難の列の最後尾は、高台にたどり着くまえに津波に追いつかれてしまいますが、とっさの判断で山を駆け上がり、間一髪のところで無事にみんなのところに合流することができました。

 三陸地方には、津波がきたら取るものも取らず、てんでばらばらに逃げるという「てんでんこ」の言い伝えがありますが、生徒たちは自分で考え行動することで、指定の「避難場所」にとどまらず、「正解」にたどり着くことができました。

 釜石東中学校では大震災前から防災教育に力を入れ、「自分の命は自分で守る」ことができるようになるだけでなく、「助けられる人から助ける人」への意識を育むことを目的に、津波避難場所マップづくりや小中学校の合同避難訓練などに取り組んできましたが、今回の震災では見事にその成果が現れました。

 このように事前の対策があることにより、災害に遭遇しても先取り的対応ができ、被害を軽減し、避難誘導のように2次災害も防げます。同時に、生徒たちが自分の判断で高台に避難できたように、主体的、能動的な行動ができることも危機管理では重要なポイントです。

 危機の中でも的確な状況判断ができ、緊急対応がとれる人材、自分の頭で考え行動ができる人材の育成が大事であることが改めて確認できます。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2012年 3月 15日号より