中小企業憲章を検証する白書を

『2012年版中小企業白書』を読んで

 今年の中小企業白書(以下、白書)の副題タイトルは、「試練を乗り越えて前進していく中小企業」です。内容を一言で言うと、「我が国の中小企業は、大震災からの復興に向けて役割を果たすとともに、海外展開、女性の活躍により潜在力を発揮し、円高、人口減少などの試練を乗り越えて前進していく」とまとめられます。

 今回の白書で注目される分析の第1は、東日本大震災からの復興の状況を把握していることです。東北地方の内陸部では、自動車や医療機器などで産業集積が進展し、地元の中小企業の潜在力の発揮が期待されると述べています。しかし一方、津波浸水地域での事業再開割合は7割に満たず、再開企業の従業員の減少も大きいとも分析。地域に根ざす中小企業が、復興・まちづくりで役割を果たすことに期待をかけています。

 注目点の第2は、中小企業にとっての海外展開が国内事業の拡大につながるとしていること。直接投資を開始した企業(1998~2004年度開始)の国内従業者数は開始年度を100として5年後には106・9になり、国内雇用も増加するとした注目される分析をしています。しかし、直接投資を継続している企業のデータを使用しているため、撤退した企業の状況は反映されていないことを考慮する必要があります。

 注目点の第3は、女性の起業と就業の意義を解明していることです。ここでは、「女性の起業による新たなサービスの提供が、個人の生活を充実させるだけでなく、家事・育児を負担する女性が就業する際の課題解決につながり、女性の社会参加や更なる課題解決サービスの拡大という好循環をもたらす可能性がある」と指摘。また、「共働き率、合計特殊出生率のいずれもが全国平均を上回っている北陸3県では、企業は付加価値を高めた経営により家計に正社員雇用を提供し、家計は企業に質の高い労働を提供し、双方を高め合う好循環を構築している」という興味深い記述もあります。

 最後に注文を2つ。1つは、中小企業憲章に関わらせた分析・記述を充実させてほしいこと。今年の白書では起業環境の整備に関して憲章を引用しているだけです。昨年の本欄では、白書を「中小企業憲章白書」化することを提案しました。たとえば、白書の一部を憲章の「行動指針」の8項目別に政策の進捗状況、到達点を把握できる内容にすることを改めて提言します。

 もう1つは、白書の最後の「結び」を復活させること。これまで、「結び」「まとめ」「終章」という形式でまとめの文章がありましたが、今年はどのようなわけかありません。「結び」は、その年の白書の内容を俯瞰(ふかん)して考える上で意義があり、白書の執筆担当者の「思い」が凝集した部分として、白書の理解を促す効果がありました。まとめの文章のある白書を要望します。

 なお、今回の白書の企業事例では、宮城、福島、山梨の会員企業が3社紹介されています。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2012年 5月 15日号より