経営指針の浸透で社員の夢が叶う企業づくり~(株)タテイシ広美社 代表取締役 立石克昭氏(広島)

社員も社長も共に『いこる会社』

 中同協第44回定時総会IN岐阜第4分科会、(株)タテイシ広美社代表取締役立石克昭氏(広島)の企業づくりの実践報告を紹介します。

私の経営哲学=「仕事を楽しむ」

 経営指針の冒頭に「仕事を楽しもう。仕事が楽しくなければ、人生は不幸である」と書いています。私の経営哲学です。それを教えてくれたのは妻でした。当初、妻の両親は、私たちの結婚に反対でした。なんとか、彼女が両親を説得して、無事結婚することができ創業することもできました。

 しかし、創業直後は仕事がまったくありません。とにかくやらせてもらえる仕事を何でもしようとベランダの手すりのさび落としやペンキ塗りの仕事に回りました。いつも2人で仕事をしました。彼女は和裁が専門でしたので、刷毛(はけ)なんて持ったことがありません。まったくの素人、下手な上に、顔も髪も服もペンキだらけにしていました。そんな風に一生懸命仕事をする彼女の姿を見た時、彼女のご両親の姿が浮かび、「家の娘をこんな姿にさせて、幸せにしてくれているのか」という声が聞こえました。

 私は彼女に率直に聞いてみました。「僕と結婚していっしょに仕事をしているけれど、後悔しとらんか?」その時返してくれた彼女の言葉を今でも忘れません。「私は楽しい。私が汚れても、塗っていく物はどんどんきれいになっていく。こんな楽しい仕事はない」と言ってくれたのです。私は、少し離れたところで仕事をしていましたが、その言葉を聞いて、涙がボロボロとこぼれました。その涙で、床のコンクリートが濡れたのを今でもはっきり覚えています。これが私の経営哲学になりました。

社員が思う私の経営指針

 「社員の自立と豊かな幸せを実現し地域社会に貢献する」という理念に社員から反発がありました。「社員の幸せを実現しと書いてあるが、これはきれいごとですよね」と言われたのです。心の底から思っていたことなのでとても心外でした。そこで経営指針に社員の夢を書き入れることにしました。1人1ページ「夢シート」として、顔写真を入れ、社員のプライベートな夢を記入しました。もちろん会社の目標の実現のためにどうするかということも記入しています。

 しかし、ある女性社員から「私のプライベートな夢を会社に公表したくない」と言われました。私は、会社の目標を実現することと社員の夢を実現することは、表裏一体であることを伝え、何とか書いてもらうことができました。

 彼女の夢は、「お料理がうまくなりたい」というものでした。彼女はすごくよく仕事をしました。責任感が強く、夜遅くまで頑張っていました。「そんなに遅くまで仕事をしていたのでは、料理を勉強する時間がないのでは。もっと早く帰ってお母さんに習ったり、料理教室に通ってもいいのではないか。そのために早く帰る方法をいっしょに考えよう」と言いました。無駄をなくしたり、他の人に仕事をまわすなど、改善することで、彼女は早く帰ることができるようになりました。そして、彼女は料理教室に通い始めました。夢が一歩現実に近づいたのです。

 この経営指針と夢シートをもとに、年間4回の面談でその進捗状況を確認し合っています。そうすることで、経営指針が単に会社のものではなくなり、私の経営指針という風に変わってきました。

 最近、若手の中心社員数名が、カバンの中に経営指針を入れ持ち歩いています。営業している社員がうまくいかず悩んで、さまざまなビジネス書を読んだようですが答えは見つからなかったようです。その時、経営指針書をパラパラ眺めていると、身近なこと自分がやらなければいけないことが書いてあったと思ったようです。何か壁にぶつかるたびに経営指針をみているようです。彼の指針書はボロボロになっています。その影響が社内に広がり、数人が日常的に経営指針をみるようになってきました。

時代を味方につける

 今年度の広島同友会のスローガンは、「今こそ示そう我らの未来 時代を味方に」です。「時代を味方に」が、とても重要なキーワードです。

 新規事業として取り組んできたLED表示器は大きく発展し、2011年3月12日に、京都市役所の庁舎前に防災情報システムとして納入しました。これは、災害情報を電光表示器にテキストで表示すると共に、それが音声でも自動で案内する仕組みです。設置したこの日は、東日本大震災の翌日でした。

 私は、この防災情報システムを災害対策のためにホームページに大々的に掲載し売っていこうと朝礼で話しました。社員の反応は、「何人もの人が亡くなり、被災地は大変なのに、それを商売につなげるのはよくない」というものでした。私も一瞬、そうだなと思いました。しかし、じっくりと経営理念に立ち返ってみると、情報の伝達業として情報を形にすることがわが社の使命です。人の命を救うためのものをつくっているのに、なぜ今遠慮しなければならないのか。今こそやるべきではないか。それが次に災害が起きた時に多くの人の命を救うのではないかと社員に訴えました。

 今、この災害情報システムに関する問い合わせをたくさんいただいています。これまでは広告の情報伝達に力を入れてきましたが、今後は社員と共に、新たに「人の命を救う情報伝達」をやっていきたいと思っています。

「いこる」ところに人や仕事は集まる

 「いこる」という言葉をご存じでしょうか?標準語では「熾(おこ)る」といいます。「炭が熾(おこ)る」というのですが、備後弁では「炭がいこる」というのです。

 私がよくするたとえ話があります。炭火のバーベキューをするときに、どこに肉や野菜を置くかという話です。一方は赤くいこっている炭、一方はあまりいこっていない火がついていない炭。当然、赤くいこっている方へ肉や野菜を置きます。この肉や野菜がいい仕事、いい情報、いい出会いなのです。炭は私たち経営者であったり、社員であったり会社とも言えます。

 「このごろいい仕事がない、情報も来ない、いい出会いがない」と思っているとすれば、それはあなたが、あなたの会社がいこっていない真っ黒な炭なのです。いくら愚痴っても、あなた自身がいこっていないことが根本的な原因なのです。いこっている経営者、社員、会社にはどんどんいい情報、いい仕事が集まっています。いこる経営者になろうというのが私の持論なのです。

 私は「いこる」という言葉を全国の標準語にしたいと思っています。ぜひ、各地に帰られて、「いこる」を広げていただきたいと思います。

故郷で錦を織り続ける

 私は自負していることがあります。私はこの田舎の片隅で雇用をつくっているのです。私が府中の田舎にこだわっているのは、「あの田舎に雇用の場をつくる」ということがまさに中小企業の社会的役割だと思うからです。1人でも2人でもいい、働く場所をつくることが、若い人がその地域から離れていくことを防ぐのです。これが私の使命だと思っています。

 「故郷へ錦を飾る」という言葉があります。都会に出て成功し、故郷へ何かを贈るという意味です。確かにすばらしい功績です。しかし、私はそれよりもすばらしいのは「故郷で錦を織り続ける人」だと思うのです。中小企業は地域に根ざして経営をしています。そこでがんばり続ける方がすばらしいと思います。

 同友会は、中小企業憲章や中小企業振興基本条例に取り組んでいます。私は「故郷で錦を織り続けること」が憲章・条例の神髄だと思っています。いこる会社づくりに取り組み、少しでも雇用を増やそうとする企業が地域に広がることで、中小企業は地域にとって大切な存在だと認められる一番の近道だと思います。みなさんといっしょに、地域に根ざし、故郷で錦を織り続ける会社づくりに取り組んでいきたいと思います。

会社概要

設立 1986年
資本金 1,000万円
 商3億3000万円
事業内容 屋外広告・電光掲示板
従業員数 24名
所在地 広島県府中市河南町
URL http://www.t-kobisha.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2012年 9月 15日号より