【DOR100号調査】経営指針 活用・実践程度によって企業の業績に明確な差

成文化だけでは業績向上に結びつかず

 中同協・企業環境研究センターでは、2012年4~6月期の同友会景況調査(DOR100号、941社回答、平均正規従業員数37・3人)のオプション項目として、経営指針策定と成果について調査しました。その結果について、立教大学の菊地進教授に分析して頂きました。

理念の外部発信、計画の定期点検まで徹底した取り組みで飛躍を

立教大学経済学部教授 菊地 進

経営指針作成の重要性が実証される

 経営指針成文化の有無により業況感に違いが出てくることはある程度わかっていましたが、今回、DOR100号オプション調査を実施したところ、成文化するだけでなく、その後の活用、実践がより大事であることが浮き彫りになりました。

 中小企業家しんぶん9月5日号を併せてご覧いただきたいのですが、この6月実施のDOR調査(回答941社)によると、経営理念、経営方針、経営計画すべてを作成した企業は67・2%(614社)にのぼりました。

 そして、すべてを作成している場合とそうでない場合に分けて業況水準DI、業況判断DI 、売上高DI、採算DIを比べたところ、いずれの指標においても、すべてを作成している企業層が10から15ポイントほど高く、経営指針作成の重要性が改めて示されるところとなりました。

人材育成と企画・営業力向上で成果があがる

 経営指針の作成方法としては、社長1人で作成、幹部とともに作成、社員とともに作成といったいろいろなパターンがありますが、作成したことにより、「理念の社内共有が進んだ」50・9%、「社内の風通しがよくなった」39・7%、「より結束が強まった」29・8%と、社内状況の変化にかなりの手ごたえを感じていることがわかります。

 そして、経営指針実践の結果を見ると、「人材の育成につながった」39・4%、「顧客ニーズに対応した企画力・営業力が向上した」36・3%が抜きんでて高く、人材育成ならびに企画・営業力の向上という基本中の基本の課題で成果があがっていることがわかります。

指針作成後の活用が業況向上の鍵を握る

 経営指針はとりあえず作ればよいというものではなく、いうまでもなくその後の活用が大事です。それを捉えたのが図1です。9月5日号でも取り上げましたが、重要ですので再掲します。このグラフは経営理念・経営方針(中・長期計画)・経営計画(単年度計画)の作成状況別に業況水準DI(2012年第二四半期)を比較したものです。値が高くなるほど業況が良いということになります。

 経営理念で見ると、未作成は別として、作成したが社内にすら出していないという状態が最も悪く、社外に公開できるくらいにまでなると、かなり厳しい中でも業況をプラスに転じうる可能性が出てくるということになります。外部へ公開できるということは、それなりに自信と納得のいくものとなっているからでしょう。

 また、経営方針(中・長期計画)にもとづく経営計画(単年度計画)も、未作成は別として、社内にすら公開しないという状態が最も悪く、社内公開はもとより、毎月その到達点を確認するくらいまでになると、これもまた業況を大きくプラスに転じうる可能性が出てくるということになります。計画は作成したら、毎月点検したくなるくらいよく考え抜かれたものでなければならないということでもあります。

目指すべき方向がデータで示された

 同友会は3つの目的(良い会社をつくる、良い経営者になる、良い経営環境をつくる)を掲げ、その実現に向けた取り組みの1つとして経営指針の成文化運動を進めてきました。

 今回の調査結果から明らかになったのは、経営理念については、作成するだけでなく、作成後、社内はもとより、社外にまで公開することの重要性です。また、経営方針(中・長期計画)についても社内に公開し、それに基づく単年度計画を作成するとともに、毎月その到達点を確認していく経営スタイルをとることの重要性です。そうした経営を目指すべきこと、これが会員の経営実践から明らかになったということであります。そのことがデータではっきり示されるところとなりました。

社内の結束を強めるために必要なのは

 今回の調査で経営計画(単年度計画)を作成した企業は84・9%にのぼりました。計画作成の必要性はかなりの程度理解されているということがわかります。しかし、ただ作成しただけではだめで、より大事なことはその到達点を定期的に確認することでした。

 そうすることにより社内状況にも変化が見られてくることがわかります。図2は、この点を捉えたものです。計画の到達点を毎月確認するようになると、理念の社内共有が一層進みますし、社内の風通しも良くなってきます。そして、結束が強まったことを実感する割合も高くなってきます。

 それは、進捗状況を経営数値的に捉え、機敏に軌道修正ができるようになるからです。また、そうした状況を社員とただちに共有できるようになるからでもあります。

対外的評価向上のために必要なのは

 図3は、経営計画(単年度計画)の作成状況別に経営指針の社内共有状況を見たものです。計画の到達点を毎月確認している場合、共有方法としては「年間スケジュールに基づく会議・勉強会などでの周知徹底」が最も多く、大変計画的に進められていることが分かります。作成したが未公表というのはあまり良くなく、結局は「成文化したが共有できていない」という結果になってしまっています。

図4は、経営計画(単年度計画)の作成状況別に経営指針実践の成果をみたものです。計画の到達点を毎月確認している場合、人材育成、企画力・営業力の向上をはじめ多くの点で優位性が示されていますが、とりわけ注目されるのは「金融機関との関係が良好になった」です。これがぐんと伸びています。

 ようするに、金融機関をはじめ対外的評価をうるためにも経営計画の定期的確認、これが大事なポイントであるということがわかります。

同友会の示した「日本経済ビジョン」実現の条件

 中同協・中小企業憲章・条例推進本部より「中小企業の見地から展望する日本経済ビジョン」が提起されています。その骨子は、(1)中小企業が発展の源泉となる日本経済を実現する、(2)景気を自ら作る気概を持って日本企業発展のモデルを作る、という点にあります。これは、同友会の3つの目的の今日的展開そのものと言えるでしょう。

 その実現のための条件は何でしょうか。その1つは、ほかならず、同友会が粘り強く進めてきた経営指針の策定と実践の運動を今回の調査で浮き彫りになった方向で一層強化することです。そして日本企業発展のモデルを作ることであります。それが「日本経済ビジョン」実現の土台を築くことになるということができます。

「中小企業家しんぶん」 2012年 10月 5日号より