新政権への注文と自立・互恵の社会を問う

元旦各紙の社説を読む

 今年の各新聞の元旦社説は、年末に誕生した安倍政権への期待と注文、同時にこれからの日本のあり方について国民としてのありよう、考え方の提起が目立ちます。

 他紙の倍のスペースを割く「讀賣新聞」は、「政治の安定で国力を取り戻せ」を掲げ、経済再生と成長力回復のため、「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」の三本の矢でデフレ脱却を図ろうとする現政権の政策の全面支持を打ち出す。同様に「国力を高める」シリーズの社説で「日本経済新聞」は、「目標設定」を重視。経済再生の目標を国民総所得(GNI)におく。これは、GDPに海外投資の利益を加える、つまり「投資立国」の勧めで、グローバル化の波に乗るための提案です。

 以上の二紙とやや趣を異にするのが「毎日新聞」。「骨太の互恵精神を育てよ」を掲げ、経済政策には全体のパイを増やしていく側面とどう分配するかの両面があり、後者を重視。特に、豊かな高齢者層から雇用も所得も不安定な若年者層への所得移転のサイクルの確立を呼びかけています。「東京新聞」も「人間中心主義」をテーマとし、経済はだれのためのものかを問いかけ、経済至上主義では立ち行かない、自然と共生する文明のあり方を模索すべし、と投げかけています。

 年末の選挙戦では、「日本」のあり方、方向を問うスローガンがうんざりするほどあふれていた。しかし、未来の日本のイメージは浮かび上がらなかったと言い切るのが「朝日新聞」。日本=国を主語にするのではなく、EUのように、「欧州」を主語に「ギリシャ」の危機打開を考える「国家を相対化する」視点が必要と提起。肩の力をフッと抜く発想とも言えます。

 昨年の元旦社説は、ほとんどが東日本大震災からの復興と原発問題に触れていました。今年は、影が薄くなっているのが気になります。ブロック・地方紙に目を転じてみます。

 「仮設住宅で迎える2度目の正月は、昨年より快適だろうか」「岩手、宮城、福島3県を中心にいまだ32万人余りが不自由な避難生活を送る」(河北新報)。この事実から目を覆ってはなるまい。「(東日本大震災や福島の原発事故という)現実に向き合うことは私たちの責任である。被災者や避難者の身を案じながら、被災地の復興を手助けするよう少しでも後押ししてあげたいと思う」(京都新聞)。こうした声を絶えず全国に広げることが大切でしょう。

 地方の人口流失、経済の疲弊への危機感も高まっています。そのことが「中小企業振興基本条例」制定促進にも表れています。「地域のことは地域が決める。分権を通じて、地域のあすを確かなものにしたい。国は地方の自立、自助を支える手立てを講じてもらいたい」(中國新聞)。

 東日本大震災、原発問題を風化させないことと同様に、沖縄の基地問題もおろそかにはできません。「米軍による軍事統治から脱却し復帰を実現した後も、米ソ冷戦が終わり平和の配当が叫ばれた後も、沖縄の過重な基地負担だけは変わらずに残った」「沖縄の基地を直ちに全面撤去せよ、という極端な議論をしているわけではない。『オール沖縄の民意』をくんで日米合意を見直し、公正で持続可能な安全保障の仕組みを検討すべき」(沖縄タイムス)との声を「わがこと」として受け止める心のありようが問われています。

 最後に残念なことをひと言。全国紙、地方紙を問わず「中小企業」の文言が全く見当たらないことです。「中小企業は、経済を牽引する力であり、社会の主役である」(「中小企業憲章」の冒頭の言葉)ならば、主役の力を引き出す期待や励ましのメッセージがあってよいはず。「THINK SMALL FIRST」にはほど遠い現実を直視し、さらに運動の輪を広げ、深めていく決意を固める2013年の幕開けです。

(K)

「中小企業家しんぶん」 2013年 1月 15日号より