第2回 債務不履行による損害賠償責任について

【民法改正を考える】 児玉隆晴(東京弁護士会所属 東京同友会会員)

 民法(債権法)改正については、現在、法制審議会民法部会で、中間試案(実際には最終試案と言えます)取りまとめの審議が行われています。

 この中で、これまで弁護士会と検討委員会(学者グループ)との間で意見対立があった重要問題について、一定の方向性が出ましたが、総じて、中小事業者始め「情報や交渉力における弱者」にとって良い方向に変わりつつあると言えます。以下、具体的な問題点を述べます。

 第一番目は、債務不履行による損害賠償責任を免れる事由(免責(めんせき)事由と言います)についてです。

 これは、例えば、A会社がB会社に対して、中古の機械を代金500万円で売り渡す契約(売買契約)をしたところ、引渡の前日に近隣で火災が発生し、その機械が保管されていた倉庫と一緒に機械も焼失してしまった場合などで問題となります。この場合、A社はB社に対して、損害賠償責任(例えば、B社がこの機械をさらにC社に代金700万円で転売しようとしていた場合は、700万円が適正な価格であれば、差額の200万円が損害となります)を負うか否かが問題となります。

 これについては、現行民法では、債務者であるA社に、機械焼失について「責めに帰すべき事由がある」場合にのみ、損害賠償責任が生じるとされています。

そうすると、近隣での火災は、通常はA社の「責めに帰すべき事由」とは言えず、免責事由が認められると言えます(但し、倉庫の周りに古タイヤを積んでいたために、そのタイヤに引火して倉庫が燃えた場合などにおいては、責めに帰すべき事由が認められると思われます)。

 これに対して、検討委員会は、「責めに帰すべき事由」という考え方をやめて、代わりに「契約により引き受けた事由」という考え方を唱えました。

 これは、上記の機械の焼失というリスクについて、債務者と債権者のどちらが引き受けた(「負担した」という意味です)かを、契約つまり合意の内容によって決めるという考え方です。

 ところが、この考え方では、ともすると、契約つまり契約書の記載内容によって、どちらがリスクの負担をするかを決めることになりがちです。

 そうすると、例えば上記の売主(A社)が中小企業で、買主(B社)が大企業などの場合は、大企業が自分で作った契約書を中小企業に押しつけてくる場合が多く、その契約書で「機械の焼失のリスクは、常に売主(A社)が負う」などと記載されてしまい、中小企業が、不可抗力を含めて、すべての火災による機械焼失について責任を負わされるおそれがあります。

 そこで、弁護士会や我が同友会は、「契約によるリスク負担」という考え方は、いわば契約書至上主義の弊風を生み、交渉力における弱者である中小企業などに不利益であると主張して反対し、現行民法の「責めに帰すべき事由」の考え方を維持するように求めました。

 これに対し、今回の中間試案のたたき台では、私どもの主張に耳を傾け、「契約の趣旨に照らし、債務者の責めに帰すべき事由がある」場合に、損害賠償責任が生じるとして、基本的には、これまでの考え方を維持することを明らかにしています。但し、現行民法と異なり、「契約の趣旨」という言葉が使われていますが、これは、「契約の文言のみならず、契約に関する諸事情について、取引通念を考慮して判断する」こと、つまり「正義や公平」に照らして総合的に判断することを意味するとしていますので、実質的には現行民法の考え方と変わらないと思われます。

 その他の重要な問題については、次回に、述べたいと思います。

「中小企業家しんぶん」 2013年 2月 15日号より