2013年 情勢の展開と企業づくりの展望~駒澤大学経済学部教授 吉田敬一氏(中同協企業環境研究センター座長)

われわれが取り組むべき政策課題・経営課題

 1月12日に行われた中同協第3回幹事会での吉田敬一・駒澤大学経済学部教授の報告要旨を紹介します。

2013年の景気動向

 2012年10~12月期同友会景況調査(DOR)の結果を見ると、業況判断は基本的には低いレベルで推移しています。特にこれまで景気をけん引していた製造業が数字を落としています。

 円安・株高が進んでいますが、きっかけとなったのは外資の動きです。世界の投機資本の動向に振り回されているのです。

 また、円安になっても輸出向け企業の採算条件が良くなるだけです。今、日本のリーディングカンパニーは、企業内国際分業に進んでいます。円安が進めば日本のGDPが増えると考えるのは間違いです。

 アメリカは常に財政赤字ですが、世界一のマーケットであるので資金がアメリカに集まってくる仕組みは続いていくと思います。

 問題はEUです。EUではドイツが一人勝ちしていますが、ドイツの輸出先はEU加盟国が多くを占めています。ドイツの景気が好転すればするほど、他にしわ寄せがいってしまいます。それがギリシャ危機となって現れたのです。この構造は変わっていないし、変えるのはとても大変です。

地域循環型の経済を

 先進国との二国間貿易で日本が一貫して赤字になっているのは、フランス、イタリア、スイスです。これは、日本がこれらの国から地場産業の商品を買っているからです。衣食住に関係するものです。

 経済は機械などの文明型産業と衣食住の文化型産業との二本足のバランスがしっかり取れていなければなりません。また日常生活では、安くて間に合わせですむ産業と、ゆったりと暮らしの個性を楽しむ本物志向の産業のバランスがとれているのが先進国です。

 日本では、今まで成長の足かせになるといって切り捨てていったところが衣食住の分野です。これからはそこを生かして地域循環経済をいかにつくっていくかを考えなければなりません。

 国際市場とどうリンクするかも重要です。ASEAN諸国、特に人口ボーナスが残っているインドネシアが重要になってきます。ASEANは、多様性を認める国際協調を進めてきました。加盟各国の合意を大事にしながら、少しずつ進んできています。日本もそのようなところと組むことで確実に成長していけるのではないでしょうか。

 インドネシアは、TPPには頑(かたく)なに反対しています。TPPは多様性を認めない規格化の論理だからです。

中小企業を巡る経営環境

 3月には中小企業金融円滑化法が終了します。金融機関に対する調査では、改善計画目標を達成している企業の割合が4割以下というところが半数を占めており、大きな影響が懸念されます。消費税率引き上げも業績へ悪影響があるという企業が約7割にのぼるという調査結果が出ています。最悪の状況を念頭に置きながら、顧客対応や経営環境への対策を進めていくことが必要です。

持続可能な地域経済社会づくりへの挑戦モデル

 循環型の地域づくりの典型例として、岩手県の住田町があります。過疎化が進む地域で、森林資源と気仙大工の存在に着目し、1980年代から仕事・雇用と所得が地域内で再生産される仕組みをつくってきました。町として森林整備へのさまざまな取り組み、大規模製材工場や集成材工場、プレカット工場の設置、第3セクターの産直住宅の設立、住宅建設への支援など、川上から川下までの流れを計画的に整備してきました。

 東日本大震災の際には、町の予算で地元の材木を使い、地元企業など地元を良く知る人たちが関わり、非常に住みやすい仮設住宅をつくり、注目を集めています。

持続可能な地域経済社会を支える同友会型企業の役割

 地域のコアになってくるのは同友会の企業です。東日本大震災でも、同友会活動がしっかりと行われていたところは、倒産する比率が圧倒的に少なくなっています。

 何が違うかと言うと、志がまるで違うのです。震災直後、社長と全く連絡がつかない中で、社員が自主的に判断して地域住民のために動くということも見られました。

 その根底には、同友会の「3つの目的」、「労使見解」、「経営指針づくり」があったのです。中小企業にとっては大変な時代が続きますが、同友会の存在意義はますます高まっていくでしょう。

「中小企業家しんぶん」 2013年 2月 25日号より