TPPで交渉余地はどれだけあるか

日本の「聖域」を守ることは不可能?

政府の説明文書(2013年2月版)によると、TPPの基本的な考え方は、「1、高い水準の自由化が目標」「2、非関税分野や新しい分野を含む包括的な協定:FTAの基本的な構成要素である物品市場アクセス(物品の関税の撤廃・削減)やサービス貿易のみではなく、非関税分野(投資、競争、知的財産、政府調達等)のルール作りのほか、新しい分野(環境、労働、『分野横断的事項』等)を含む包括的協定として交渉されている」と述べています。

 具体的な交渉分野としては21分野もあり、日本で問題視されている「農業の関税問題」は、物品市場アクセスの一部に過ぎません。日本のマスコミに見られる農業・農協対経済界という図式は奇異に見えてしまいます。

 しかも、東京新聞の2013年3月7日付によれば、「TPP参加に極秘条件 後発国、再交渉できず」と報道。後れて交渉参加を表明したカナダとメキシコが、米国など既に交渉を始めていた9カ国から「すでに現在の参加国間で合意した条件は原則として受け入れ、再交渉は要求できない」などと、極めて不利な追加条件を承認した上で参加を認められています。

 TPP交渉参加国は過去3年間、幾度となく交渉と合意を繰り返してきました。 今さら、新参者に過去の合意事項を変更させるなど、認めるはずがないのです。

 すなわち、日本にとってのTPPとは、すでに、「外国が作ったルールを全面的に受け入れるか、TPPに参加しないか、二者択一」という段階に至っているのです。

「聖域」は守られるのか

 具体的に見てみましょう。自民党は、6つの判断基準をTPP交渉において守るべき「聖域」として決議しました。その1つの農業について「コメ、麦、牛肉、豚肉、乳製品、甘味資源作物」を「聖域」としています。

 問題は、自民党の決議で示された我が国の「聖域」が守られる可能性が、少しでもあるのか、という話なのです。

 先日、シンガポールで開催されたTPP拡大交渉会合では、日本がTPP交渉参加に際し「聖域」を設定するように求めていることについて、複数の国が懸念を示しています。

 さらに、交渉参加国は日本に対し、「これまでの交渉会合で積み重ねた合意を厳守するよう」求めることで一致したのです。

 しかも、日本がTPP交渉の現状を最終的に確認できるのは、アメリカ議会での批准が終わった今年7月。すなわち、7月になるまで、「日本は再協議なしでどこまで聖域を守れるか」が、不明なのです。さらに、TPP交渉参加国は年末までの交渉妥結を目指しています。

 すなわち、我が国がTPP交渉に実際に参加できるのは、「最後の交渉」である9月1回きりか、良くて7月になる可能性があります。

 最後の交渉に1度、あるいは2度参加しただけで、「交渉力」で過去の合意事項を再協議し、我が国の聖域を守ることができるのか、との疑念を抱かない方がおかしいと思うのですが、いかがでしょうか。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2013年 4月 15日号より