<シリーズ消費税を考える(2)> 関東学院大学法学部教授 阿部徳幸

止まらない消費税の滞納とその問題

 消費税の滞納が止まりません。11年度の新規発生滞納だけをみても62万6000件、金額で3220億円です。これは滞納国税全体の件数の41・5%、金額で53%となっています。ダントツのトップです。さらにこの傾向は、免税点が1000万円に引下げられた年の翌年(05年)から続いているのです。消費税の国税収入に占める割合はおおよそ20%ですから、滞納も20%程度で推移するなら分かります。しかし、実態はその倍以上となっています。これだけの件数の滞納が長期にわたり発生するということは、その制度に欠陥があるとしかいいようがありません。

 政府はこれまで消費税の性格について、「納税義務者は事業者だが、事業者に負担を求めるものではなく、最終的には消費者が負担するもの」と説明してきました。しかし、これが本当であれば、これほどまでの滞納は発生しないはずです。なぜなら事業者は負担しないからです。

 ではなぜこんなにも滞納が発生するのでしょうか。答えは簡単です。事業者が負担しているからです。納税義務者は事業者、しかし、担税者(税を負担する者)は消費者。この図式は、政府が理想とする消費税のイメージにしかすぎないのです。そもそも消費税法において「担税者」という言葉はどこにも出てきません。また、消費税法は、消費税相当額を「預かれ」ともいっていないのです。消費税法は、消費税相当額を預かっていようがいまいが、「売上」の5%を消費税として納めなさいと規定するにすぎないのです。

消費税相当額とは?

 では、われわれが消費者としてモノを消費する際、負担が求められるあの消費税相当額とは一体何なのでしょうか?実はあれは価格の一部なのです。ファミレスへ行き2000円のステーキを注文し2100円を支払う。これは、2000円のステーキと消費税100円ではないのです。消費税法によれば、2100円がステーキ代ということなのです。このことは消費税そのものの性格が争われた裁判(東京地判平2・3・26)の判決文において、「消費者が事業者に対して支払う消費税分はあくまでも商品や役務の提供に対する対価の一部としての性格しか有しない…」と述べていることからも明らかです。

 しかし、多くの人は2000円のステーキと消費税100円として理解しているはずです。なぜこのような誤解を生んでしまったのでしょうか? 政府は、この膨れ上がる消費税の滞納に恐れをなしました。滞納が膨れ上がれば、消費税は事業者が負担することが明らかになります。事業者が負担しているとすれば、納税義務者は事業者、しかしその負担者(担税者)は消費者という、政府が予定する図式が崩れることになるのです。

 そこで政府は、消費税相当額を「預り金的」性格として位置づけ、滞納税金の回収とその発生防止に努めているのです。

 このように消費税とは、多くの国民の誤解のもとにできあがっている制度なのです。消費税相当額がその価格の一部であるとするならば、「消費者から預かった消費税が、国庫に入らず事業者の懐に入るのはおかしい」とする、いわゆる「益税」問題は法律上存在しないことになります。益税問題も、政府による消費税増税のためのプロパガンダに過ぎないのです。

「中小企業家しんぶん」 2013年 5月 15日号より