白書における不可解な3つのこと

『2013年版中小企業白書』を読んで

 今年の中小企業白書(以下、白書)の副題タイトルは、「自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者」です。

 その意味するところは、「地域や社会を支える中小企業・小規模事業者は、変化する事業環境に合わせ、経営を変革させている。起業・創業、新事業展開、事業承継、情報技術の活用等に焦点を当て、その活動を明らかにする」ことが目的です。

 今回から「中小企業」の用例は、原則的にすべて「中小企業・小規模事業者」に変わっています。なぜ、か。「現在、小規模事業者に焦点を当てた中小企業政策の再構築を進めている。このため、今回の白書においては、…小規模事業者とそれ以外の中小企業に区分して、それぞれの現状や直面する課題を明らかにする」と述べています。小規模事業者にこだわった白書といえるでしょう。

 白書に不可解な点が3つあります。

 第1は、「第1部 2012年度の中小企業の動向」に、「第4節 中小企業・小規模事業者の役割・課題」が入っていること。これは、本来は理論編である「第2部 自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者」の一番最後を飾ってもおかしくありません。

 しかも、重要な論点である「小規模企業と地域経済の自立」が「補論」に位置づけられています。「地域内のつながりを強めることによって地域で生み出された付加価値が域外に流出せずに域内にとどまるようになり、持続可能な地域経済に実現を目指すことが可能となる」との記述や県産化率など注目される論考が目につきます。

 第2は、開業率を引き上げる方法論が弱いにもかかわらず、根拠の薄い大言壮語が目立つことです。「我が国の開廃業率は、米国や英国に比べて低迷しているのが実情であるが、開業率が廃業率を上回るとともに、中長期的には米英並みの水準への引上げを目指していく」と大見得を切りました。しかし、いかに中長期的な課題だとしても、開業率4%、廃業率6%と逆転した関係をどのように元に戻せるのか。開業率6~7%は日本の高度成長期の数字だが、米国・英国の開業率10%台にどう近づけるといえるのか。現状では夢物語としか思えません。

 第3に、中小企業憲章への関心がないことです。「第2部第2章 新事業展開」の冒頭に「中小企業・小規模事業者は、…ときには新市場の開拓者として、我が国経済を牽引している」として、脚注に「中小企業憲章前文」とあるので、参照せよという意味なのかもしれませんが、中小企業憲章が出てくるのはここのみです。改めて白書を「中小企業憲章白書」化することを提案します。

 最後に、昨年に引き続き今年も「結び」がありませんが、1964年の第1回白書が発表されてから50回目になり、「過去50年の中小企業白書を振り返って」を載せています。

 なお、白書で取り上げている事例は42ありますが、そのうち7事例が同友会。北海道と滋賀が2、神奈川、石川、香川が1。6分の1が同友会です。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2013年 5月 15日号より