被災地同友会企業の健闘の背景に何があったか~中同協「被災地企業の実態と要望」特別調査より

調査概要

〔調査目的〕 東日本大震災発生から2年が近づく中、発災から今日に至るまでの会員企業の実態と、行政対応や施策に対する評価・要望を取りまとめて教訓化すること。
〔調査期間〕 2013年1月
〔調査対象・調査方法〕 岩手同友会、宮城同友会、福島同友会の全会員を対象にFAXを用いて実施した。
〔回答状況〕 岩手同友会122件(32%)・宮城同友会259件(25%)・福島同友会292件(17%)/合計673件(21%)※( )内は回答率
〔集計・分析協力〕 中同協企業環境研究センター

 図1は震災による被害状況を示したものである。激甚災害地域では半数以上が設備に被害を受けており、建物全壊(43.8%)も極めて高い。従業員とその家族の被害も他地域に比べて圧倒的に高い比率である。しかし内陸部でも建物一部損壊や設備への被害がかなりの割合で存在しており、事業継続が困難になる状況が広い範囲に及んでいた。

早期の事業再開

 こうした過酷な状況下で同友会会員企業の健闘が目立つ。2012年2月の被災3県の被害甚大地域に本社を持つ中堅・中小企業5004社の企業再建状況調査(帝国データバンクが実施)によると宮城県(2575社)では、休廃業が367社(14.3%)、“実態不明”と分類された企業が77社(3%)も存在していたのに対して、宮城県の石巻・南三陸・気仙沼の同友会企業は2011年秋時点で、石巻支部では会員70社のうち廃業などで退会した会員は2社、南三陸支部では29社すべてが存続、気仙沼支部では68社のうち廃業はわずか1社であった。3支部合計(167社)でみると廃業・退会した会員は3社で1.5%にとどまっており、宮城県全体の企業再開動向と比べて大きな違いが見られた。

フロンティア企業が地域経済を牽引

 被災地の同友会企業は会員間、取引先企業・金融機関などとの濃密なネットワークを活用し、前代未聞の危機的局面を強靭な社長のリーダーシップと指針に基づく全社一丸の経営スタイルを両輪として着実な事業の復旧・復興過程に取り組んできた。その成果の一端が震災前と比較した売上高水準の調査項目結果である(図2)。もっとも過酷な経営環境にある激甚災害地域において4割の企業が震災前を超える売上に達している。震災前並みに戻った企業を合わせると過半数の企業が表面上は震災による存立危機を克服し、新たな展開の入り口に到達したといえる。この評価は被災地域の会員企業全体の実態を示すものではなく、あくまで危機打開の先陣を切ってきたフロンティア型の会員企業の成果とみるべきであろう。決して復旧・復興事業の山場を越えたものではない。

グループ補助企業にみる同友会企業と一般企業

 また東北経済産業局が2011年9月に実施したグループ補助金の交付先企業(4506社対象、3764社から回答)に対するアンケート調査結果によると、事業再開にこぎつけた企業のうち7割は震災前の水準に戻っていなかった(『東日本大震災から2年を経た東北経済』2013年3月)。同友会調査結果と比較してみると(図3)、一過性ではあるが復旧・復興需要の恩恵を受けている建設業では同友会企業の売上状況は飛びぬけて高いこと、大きな被害を受けた食品加工業では同友会企業は売上が震災前より増加した企業の割合は東北経産局調査より高く、落ち込みの度合いは低くなっている。また製造業でも「増加」と「震災前並み」を合わせると東北経産局調査が31.7%であったのに対して同友会調査では34.9%であり、地域経済の中での同友会企業の健闘ぶりが明白になる。

経営指針の存在と同友会ネットワーク

 今回の調査では、同友会会員企業の健闘の背景にあったものも浮き彫りになっている。「震災後の経営活動で役立ったもの」について、震災前と比べた売上高増減の視点から見ると、トップにくるのが「経営指針の存在」(26.7%)である。次いで、「同友会の支援・ネットワーク」(11.7%)である(図4)。つまり、震災後の売上が回復した企業ほど経営指針の存在と同友会の支援・ネットワークの重要性を認識していた傾向がある。

 震災後の被災地同友会と全国同友会が連携した組織的支援活動、そして経営指針に基づく全社一丸体制の経営体質という同友会の企業づくりが背景にあったといえる。

調査結果に寄せて ~同友会のネットワークを広げ地域復興へ

中同協企業環境研究センター座長 吉田 敬一氏 (駒澤大学教授)

 今回の被災地調査結果は、復旧・復興の実態と問題点および今後の展望のみならず、地域経済・中小企業にとって高度な危機管理能力を持った強靭な地域産業構造と経営づくりの課題ならびに同友会の存在意義を明らかにしたものです。また被災地以外の同友会と会員にとっては持続可能で個性豊かな循環型地域経済の構築と地域になくてはならない中小企業のエッセンスを考える上で、多くの有益な手掛かりを得ることができます。

 被災地の中堅・中小企業は甚大な被害を受けたにも関わらず、同友会企業は2011年秋の時点で98%以上が事業を再開するという驚異的な状況を切りひらきました。こうした背景には、同友会の組織的支援活動のスピード感と実情に見合った支援内容、会員相互の日常からの営業上のみならず人間的な繋がり、社長と社員の想像を絶した企業再建への意気込みが存在していました。すなわち3つの目的、労使見解の実体化、経営指針に基づく全社一丸体制の経営体質という同友会トライアングルが見事に連動していたといえます。

 ただし、調査結果では被災地における同友会企業の経営状況は危機を脱し好転しているかに見える箇所がありますが、地域経済が疲弊化する中で必死に地域を支える同友会企業の役割が飛びぬけていることの反映です。震災地域全体を見れば、2012年12月の鉱工業生産指数は88.9で震災前水準を大きく下回っていました。また経産省の試算では12月の生産額は震災前に比べて18%も減少していました。しかも昨年後半からマイナス幅が拡大傾向をたどっています。地域全体にとっては、復旧が終わり、展望が拓けたのではないことに注意が必要です。同友会企業のネットワークを広げて、地域全体を復興するための「面」展開が重要になっています。

「中小企業家しんぶん」 2013年 6月 15日号より