<シリーズ消費税を考える(3)>関東学院大学法学部教授 阿部徳幸

消費税の価格「転嫁」の問題

 政府は消費税率引き上げに向けた環境整備に大わらわです。「消費税の円滑かつ適正な転嫁等に関する対策推進本部」を設け、いわゆる「価格転嫁対策特別措置法案」を策定し、消費税相当額の「転嫁」問題に取り組んでいます。これらの一部は、「春の生活応援セール」は『マル』、だけど「消費税還元セール」では『バツ』、といった報道により紹介されているところです。そもそも消費税法は「転嫁」を保障していません。「転嫁」するかどうかは事業者の自由なのです。しかし、「転嫁」がうまくいかなければ事業者自らが負担することになり、場合によっては「滞納」となってしまいます。また「滞納」が多くなれば、消費税を事業者が負担している実態も露呈してしまい、政府が求める「広く一般が負担する公平な税」という消費税の理想像は、もろくも崩れることになってしまいます。

 では、このような政府の取組みにより「転嫁」はうまくいくのでしょうか? 答えは明白です。「NO」です。そもそも消費税相当額とは価格の一部でした。2000円のステーキと税ではなく、2100円のステーキだったはずです。価格を決めるのは市場です。市場がステーキの値段を2100円と決めたのです。市場が2100円では「ダメ」と判断すれば、例えば2000円というように価格を変更せざるを得ないのです。そして2000円と価格を下方修正した瞬間に、事業者は消費税相当額を自己負担することになるのです。

赤字でも発生する消費税の問題

 よく経営者の方から、「ウチは、消費税等を請求書で別に記載して請求しているから大丈夫!」、ということをうかがいます。本当にこれで大丈夫なのでしょうか? この請求書に記載された売上代金とは、利益のほとんど得られない、いわばカツカツの金額ではないでしょうか? 現在、全法人の75%が赤字といわれています。適度な利益を盛り込んだ売上金額であればこのようなことにはならないはずです。

 通常、利益がなければ税は発生しません。ただし消費税は別です。消費税は赤字であっても納税額が発生します。納付すべき消費税額は、「売上×5%―仕入×5%」として計算されます。一見すると赤字の場合、この算式の答えがマイナスとなり、納税額は発生しないようにも思われます。しかし消費税の場合、この「仕入」には、「給料」・「法定福利費」といった人件費、さらには「支払利息」などは含まれないのです。ですから決算では「赤字」であっても、消費税の納税額は発生することになるのです。

 赤字決算の場合、資金繰りが苦しくなるのが一般的です。そのうえに消費税が追いかけてくるのです。赤字であっても納税は済ませなければなりません。消費税納税のために、これまで貯めてきた虎の子の預金を取り崩さなければならないことにもなります。

 これが何年も続くとどうなるのでしょうか? 良くて「廃業」、悪くすれば「倒産」、現実には「その先」ということも起きています。消費税率が引き上げられればこれにますます拍車がかかることになります。 このように消費税とは、事業者にとっても大変に恐ろしい税制なのです。

「中小企業家しんぶん」 2013年 6月 15日号より