労使コミュニケーションアンケート調査を終えて~独立行政法人労働政策研究・研修機構 呉 学殊

調査のねらい

 労働政策研究・研修機構では、労使コミュニケーションの実態を把握するために、2012年11月から13年1月にかけて、アンケート調査[調査名:「労働条件をめぐる労使コミュニケーションの実態に関するアンケート調査」(社長票及び従業員過半数代表票)]を実施しました。調査対象は、同友会企業5,893社、非同友会企業9,500社にしました。有効回答票は、同友会の場合、社長11.0%、従業員過半数代表9.3%、非同友会の場合、社長9.3%、従業員過半数代表8.5%でありました。今回の調査は、同友会会員企業と非同友会企業との比較を通じて、同友会の活動が労使コミュニケーションにどのような影響を及ぼしているかを探り、政策的なインプリケーション(解説)を得ようと考えました。

社員・従業員への意識の違い

 主な内容を紹介すると次のとおりです。まず、社長の労使コミュニケーションに対する基本方針をみると、「一般従業員の意向や要望を十分に把握して経営を行うべきだ」と考える回答の割合は、同友会会員企業が81.4%と、非同友会の70.9%より高かったです。

 企業が労使コミュニケーションを図る上で一番基礎的なものとして、経営情報をどれほど従業員に開示しているかをみると、すべての項目において、同友会が非同友会より高かったですが、その中でも売上高、利益、人件費、交際費、社長など役員の報酬といった金銭的情報ではそれが顕著に現れました。(図1)

 労使コミュニケーションの円滑化を図るための手段をどれほど活用しているかを見ると、朝礼、経営方針・経営計画発表、経営理念の作成において、同友会が非同友会より約10%ポイント高い割合となりました。同友会の経営指針作成運動が現れました。

労使コミュニケーションの効果についても同友会が非同友会よりもっと肯定的に認めていました。

 第1に、リーマンショックの危機を早めに克服したが、それは、従業員に企業業績を説明し、企業との一体感を持つようにするとともに、雇用を守ると従業員を安心させた上で、経営に対する意見を求めた結果と見られます。

 第2に、同友会の社長・従業員過半数代表が非同友会より多く労使コミュニケーションの一般的効果を認めています。社長の場合、同友会が69.5%と非同友会の59.8%より10%ポイント高かったです。

 第3に、労使コミュニケーション効果の内容を見ると、「従業員が会社の運営に関心をもつようになった」「企業活動の運営が円滑になった」などの項目を中心に、同友会が非同友会よりその効果を積極的に認めました。

 第4に、よい職場雰囲気づくりにつながりました。「社員が生き生きと働いている」「社員が自主性を発揮している」「部下や後輩を育てようとしている」「職場ではメンバーの一体感を重視する傾向が強い」「率直にものが言える」「仕事以外のことを相談し合っている」「魅力のある職場である」という職場雰囲気のすべてにおいて、同友会が非同友会より高かったです。(図2)

 第5に、社員活用の積極性です。同友会が非同友会より「社員への権限委譲」、「会社情報の共有」、「配置・転換の際に社員意思の尊重」、「社員に対する能力開発の積極性」などの項目で回答の割合が高くなりました。

 第6に、賃金も勤続年数や能力に応じて上がる傾向が非同友会より同友会で強く現れています。生活保障と能力主義が強いといえます。

更なる労使コミュニケーションの発展に期待

 今回、労使コミュニケーションの実態調査を通じて、『労使見解』の実践、また、同友会のさまざまな活動がよき労使コミュニケーションとその効果を生み出していることが明らかになりました。しかし、同友会の研究集会への参加や14社の事例調査の際に伝わった「同友会の凄さ」がこのアンケート調査では期待したほど現れていないという感じがしております。同友会の会員企業の中でも、労使コミュニケーションにおける温度差があるのではないかと思いました。今後、同友会活動の積極的な参加と実践を通じて、より多くの企業が労使コミュニケーションの有効性を確信し、自社に根付かせて多くの効果を生み出していくことが出来れば、同友会会員企業の魅力が一層現れて、多くの優秀な人材が集まって、能力・可能性を最大限に発揮していくものと確信致します。その際、同友会は、輝かしいブランドとなると思います。

 最後に、このたび、アンケート調査にご協力くださいました皆様にこの場を借りて心より感謝申し上げます。

『労使コミュニケーションの経営資源性と課題―中小企業の先進事例を中心に―』を読んで

 本書は独立行政法人・労働政策研究・研修機構の呉学殊先生が中心になり、労使コミュニケーションを主眼に同友会14社の会員企業の丹念な調査の結果を収録したものです。

 数年前、当社も呉先生の調査を受けての際、『労使見解』の成立過程と内容をお話しました。先生は見解と企業における具体的実践に強い関心をもたれました。

 企業は人なりと言いますが、社員が社長の考え方(理念~ビジョン)を理解してくれ、仕事に誇りと喜びを持ち、互いに協力、努力する気風がどれだけ強いかが企業の繁栄・発展を左右します。仕事を通じてより高い技能や知識の修得、仕事を通じて人間として一段と成長する。社員にもお客様にも満足していただける企業になるために創意工夫をこらして努力している姿が良くわかる著書です。一読をお勧めします。

中同協顧問 田山謙堂

資料シリーズ No.124 労使コミュニケーションの経営資源性と課題―中小企業の先進事例を中心に―

独立行政法人労働政策研究・研修機構のサイトよりPDFファイルでダウンロードできます。
https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2013/124.html

「中小企業家しんぶん」 2013年 7月 15日号より