成長戦略と中小企業~開業率・廃業率10%を目指すとは

 安倍首相が6月に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略」では、(1)日本産業再興プラン、(2)戦略市場創造プラン、(3)国際展開戦略の3つを柱に、13のテーマにつき具体策を論じました。

 大きな目標を「デフレ脱却」「平均の名目成長率3%」と決めています。しかし、正直、過去の成長戦略と似たような面も…。安倍首相自身が「今まで散々論議されてきた中身がたくさんあるのも事実」と発言したように、戦略分野のイメージに、もはや見解の相違がなくなりつつある結果といえます(「戦略研レポート」2013・6・28、三井物産戦略研究所)。

 「日本産業再興プラン」の6つの柱に「6、中小企業・小規模事業者の革新」を入れたことは当然のこととはいえ、中小企業憲章の精神に沿ったものとして評価できます。

 特に、再チャレンジ投資の促進に関連して、「個人保証制度の見直し」に触れて、「経営者本人による保証について、法人の事業資産と経営者個人の資産が明確に分離されている場合等、一定の条件を満たす場合には、保証を求めないことや、履行時において一定の資産が残るなど早期事業再生着手のインセンティブを与えること等のガイドラインを、本年のできるだけ早期に策定する」など、長年要望してきた立場から大いに歓迎したいと思います。

 また、「生の声」を反映していくため、地域ブロックごとに、地域を支える企業の経営者などをメンバーとする「地方産業競争力協議会(仮称)」を設置することも重要なことです。

 しかし一方で、「開業率が廃業率を上回る状態にし、開業率・廃業率が米国・英国レベル(10%)になることを目指す」としていますが、「開業率が廃業率を上回る状態」は1980年代後半に逆転して以降、中小企業基本法が改正されても変わらない数字ですし、ましてや「10%になることを目指す」とは、どのような施策をとろうというのでしょうか。10%は高度成長期でさえ経験がありません。

 現状は、開業率が6%から2%に低下する一方、廃業率は3%台から6%台に上昇する傾向にあります。

 ちなみに、米国の中小企業は独立自営の企業です。特に、移民とマイノリティは起業家の宝庫であり、新会社の創設は、移民にとっては自らを経済に組み込むための主要なメカニズムでもあるのです。単純に日本と比べることはできません。

 さらに、「中小企業育成センター」(SBDC)は全米の約1000カ所にセンターが設置され、大学など教育機関と連携して起業家育成を行っていること。さらに、「SCORE(スコア・退職管理職サービス団)」や「女性ビジネスセンター」(WBC)など加えると1500カ所のカウンセリングの拠点が存在します。「10%になる」と言うからには長年の仕掛けが必要なのです。

 そして、開業率が上回るとはいえ、廃業率が10%とはどんな世の中を想定しているのでしょうか。新陳代謝とは相当に不安定な世の中になりそうです。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2013年 7月 15日号より