<シリーズ消費税を考える(4)>関東学院大学法学部教授 阿部徳幸

 「春の生活応援セール」は『マル』、「消費税還元セール」は『バツ』、政府による消費税転嫁に向けた対策のひとつです。

 かつての消費税率5%へ引き上げの際、百貨店をはじめとした小売業者が、増税による消費の冷え込みに対処すべく、「消費税還元セール」などといった値引き販売を行いました。この値引き販売のもと、納入業者への「買いタタキ」が問題となりました。納入業者は、消費税相当額を自ら負担せざるを得ません。負担できない部分は、滞納となってしまいました。5%への税率引き上げ後、消費税の滞納は一気に増加しました。バトン・リレーのごとく、次々と転嫁されるべき消費税、このバトンが途絶えてしまったのです。本来、消費者が負担すべき税を事業者が負担したからです。政府のいう「消費税とは、消費一般に広く公平に課税する間接税」という前提が崩れてしまいました。政府はかつてのこのような事態を懸念し、対策を打ち出しました。これがいわゆる「価格転嫁対策特別措置法」であり、納入業者への「買いタタキ」防止対策なのです。このキャッチ・コピーはその具体例の一部です。

不可能な「転嫁」

 国税庁は、消費税を、「取引の各段階ごとに5%の税率で課され、事業者が販売する商品やサービスに含まれて、次々と転嫁される税金」と説明します。ただし、ここでいう販売は、「適当な利益をのせた価格」でなければなりません。しかし、現実には、たとえ大手であっても一般消費者と対峙する小売業は、1円刻みの価格競争にさらされています。いわば、規模の大小に係わらず小売業全体が、一般消費者との間で、価格競争という名の「買いタタキ」を受けているのです。一般消費者からこのような「買いタタキ」がなされる現状、関連する流通過程のすべての段階、すなわち小売業者、製造業者、そして原材料業者それぞれにおいて、ある程度の「買いタタキ」は甘受せざるを得ません。一般消費者に買ってもらえないからです。これが自由主義であり資本主義のはずです。政府の講ずる対策では、確実な「転嫁」は不可能です。そもそも確実な「転嫁」など、一般的にはあり得ないのです。仮に常識はずれの「買いタタキ」であれば、例えば「下請法」といったほかの法律で対応することになるのです。

 では、政府の求める「転嫁」とは、実現不可能なのでしょうか? 価格決定は、市場における経済的「力」関係によるのです。そこでは、企業規模の大小にかかわらず、市場における独占的地位を占め、価格決定権をもつ事業者だけが、政府のいう「転嫁」が可能なのです。果たしてこのような事業者は、わが国にどのくらい存在するのでしょうか?

 取引の各段階ごとに一定の税率で課され、事業者が販売する商品やサービスに含まれて次々と転嫁される現行の消費税制、このシステムでは、政府が予定する確実な「転嫁」は所詮不可能なのです。したがって、ここでは消費税を自己負担しても持ちこたえられる体力が求められます。それには「利益」が必要なのです。すなわち「景気回復」です。今回の税率引き上げの条件に「景気回復」があったはずです。報道によれば、政府は今年10月にこの景気判断を行うとのことです。先送りの場合は別として、景気判断はぎりぎりまで待たねばなりません。

「中小企業家しんぶん」 2013年 7月 15日号より