【同友会景況調査(DOR)概要(2013年4~6月期)】水面下の改善あるも、先行き不安定感ぬぐえず

調査要項

調査時点 2013年6月5~15日
調査対象 2,413社 回答企業 956社(回答率39.6%)(建設166社、製造業304社、流通・商業296社、サービス業176社)
平均従業員数 (1)35.8人(役員含む・正規従業員)(2)35.3人(臨時・パート・アルバイト)
※業況判断DI(デフュージョン・インデックス)は、好転企業が悪化企業を上回っている割合(%)をさす。DIが100に近いほど、好転企業の割合が高いことを意味し、DIが-100に近いほど、悪化企業の割合が高いことを意味している。好転、悪化が同数の場合は、DIは0となる。ほかの指標のDIも同じ考え方で作成されている。各水準DI以外、本文中特に断りがないものは前年同期比。

DOR、水面下で改善、次期以降に不透明感も

 日銀は6月の景気判断を「持ち直しつつある」から「回復しつつある」と上方修正しましたが、6月調査の日銀短観を見る限り、大企業全産業の設備投資計画はいまだ前年同期比より低い水準で、中小企業景気の回復にも遅れが見られます。世界経済の場面でも、バーナンキFRB議長の量的金融緩和政策の縮小・停止という「出口戦略」発言、中国経済の景気減速の表面化、新興国からのマネー流出など、新たな懸念材料が出てきています。市場には“アベノミクス”への期待感も存在しますが、中小企業家は実体経済に軸足を置き、経営環境を冷静に注視・警戒することが求められます。

 DORの2013年4~6月期の業況判断DI(「好転」-「悪化」割合、前年同期比)は△10→△2と8ポイント改善。前期比の業況水準DI(「良い」-「悪い」割合)も△17→△9と8ポイント改善しました。景気「好転」を感じる企業が増えてきているものの、景気水準は「悪い」と感じる企業の方がまだ多い状況です。次期、業況判断DIは△2→6、業況水準DIは△9→△3とそれぞれ改善が期待されています。設備投資実施割合も増える見込みですが、製造業の不振もあり改善の力強さは不透明です。景気の不安定性はぬぐえません(図1、図2)。

製造業の改善期待裏切られる

 業況判断DIを業種別に見ると、製造業が△24→△22と足踏みで、期待されていた大幅改善(△24→△5)の予想が裏切られました(図3)。仕入れ単価の急上昇が影響しています。一方、建設業が△3→12、流通・商業が△5→△1、サービス業が2→16と、建設業とサービス業の大幅な改善が目立ちます。

 地域経済圏別では、関東が△11→6と大幅に改善。北陸・中部が△21→△15、近畿が△16→△1、中国・四国が△1→1、九州・沖縄が2→11とそれぞれ改善です。大都市圏の方が地方圏より改善幅が大きく、全国的な持ち直しには至っていません。

 企業規模別では、100人以上が△10→0、50人以上100人未満が△19→△7、20人以上50人未満が△13→△6、20人未満が△5→0とそれぞれ改善しました。企業規模が大きいほど大きな改善幅で、規模により改善に差があります。

仕入高DIの上昇つづく、採算圧迫の要因に

 売上高DI(「増加」-「減少」割合)は△9→△2と改善、経常利益DI(「増加」-「減少」割合)も△12→△5と改善しました。ただし、いずれも製造業での回復の遅れが目立ちます。売上高・経常利益DIの次期はそれぞれ△2→8、△5→0への改善を見込んでいます。実現するかどうかは円安進行にともなう仕入単価の上昇が影響しそうです。

 仕入単価DI(「上昇」-「下降」割合)は円安先行による原材料費・仕入値上昇を反映して23→37と急伸が続いています。円安進行影響調査では、影響があったうち77%で予定利益が減少し10%で赤字に、また、販売価格に「ほぼ転嫁できている」のは9%にとどまりました。「ほとんど転嫁できていない」は59%にのぼります。売上・客単価DIは△12→△5と改善し、懸命の経営努力が展開されていますが、それを大きく上回る仕入コストの上昇が採算を圧迫しています(図4)。

 金融面では、資金繰りDI(「余裕」または「やや余裕」-「窮屈」または「やや窮屈」割合)は3→9と余裕感が増しています。一方、長期資金の借入金利に上昇傾向が見られますが、資金需要が低調であるために資金調達環境に大きな混乱はみられません。ただし、今年の4月以降、金利動向は不安定さを増しつつあり、その動向には注意が必要です。

設備不足感が続くも、本格的な投資はなお躊躇

 1人当たり売上高DI(「増加」-「減少」割合)及び1人当たり付加価値DI(「増加」-「減少」割合)は△9→△5、△10→△8とわずかながら改善しました。生産性に関する指標の悪化に歯止めがかかるか注目されます。雇用面では、正規従業員数DI(「増加」-「減少」割合)は7→7と横ばい、臨時・パート・アルバイト数DIは3→5と微増でした。人手の不足感DI(「過剰」-「不足」割合)は△17→△11と不足感の伸張が一服しました。

 設備の過不足感DIは△9→△9と設備投資の不足感がありますが、実施割合は再び30%台を割り込みました。しかも設備目的は、維持補修が中心です。製造業の設備投資しない理由を見ると「自業界の先行き不透明」が40%→50%に急増しました。取引先企業の海外進出や後継者の問題に加え、昨今の仕入高も加わり、業界全体の先行き不透明感に懸念が強まっています。本格的な設備投資に対する躊躇が見られます(図5)。

社員教育の努力が強まる

 経営上の問題点では「民間需要の停滞」が減少しました。一方、「仕入単価の上昇」が23%→30%、「仕入先からの値上げ要請」が7%→10%と上昇しました。加えて「従業員の不足」、「熟練技術者の確保難」といった人手に関わる指摘も増えています。

 経営上の力点では「社員教育」(44%)の努力が続いています。社外の評価でも、社内の必要からも社員教育の重要性が認識されているようです。円安の進行、原材料価格高騰の中で、“見える経営”と全社員参加の経営指針の実践の重要性がいよいよ高まっています。

<“見える経営”と全社員参加 に関わる記述>

●「長期借入資金の前倒し導入、役員の給与カット、同族会社であるが社内の若手2人を役員に昇格し、“見える経営”経営公開の一層の浸透を図り厳しい環境に備える」(広島、流通・商業)
●「目標に対する社内の意識を高める為、目標の立て方をトップダウンからボトムアップへと移行する試みを実施した。内容としては、ワークショップ形式での目標設定のための会議を部門毎、全社員参加で行った。今後は、立案した目標の進捗を検証して行く」(北海道、測量・補償コンサルタント・建設コンサルタント他)
●「毎年実施している方針発表会による現状確認と新年度方向性を全社員力により実行する。特に経営革新計画の確実な実行により、新規分野への参入及び技術革新」(大阪、樹脂押出成型金型の製造)
●「事業戦略を見直し、自社の強みをより明確にして、経営指針を社員全員に作成し、実行していこうと思います」(岡山、地質調査、地盤改良工事)

「中小企業家しんぶん」 2013年 8月 5日号より