男性の就業環境を改善せよ

男性就業率の引き上げで、GDPを4%押し上げる

 何気なく読んでいるものの中にキラリと光る論考を見つけました。『週刊エコノミスト』の「景気観測」枩村秀樹・日本総合研究所主任研究員の論文です。その一文を紹介します。

 過去20年間の就業率の変化を見ると、女性の就業率が1990年から2010年にかけて全体的に上昇しています。30歳前後の就業率が上昇した結果、「M字カーブ」も随分となだらかになりました。

 一方、男性の就業率は大幅に低下しています。25~29歳で、94%から78%まで落ち込みました。6人のうち1人が働かなくなったことを意味します。40歳代、50歳代でも10%前後低下しています。

 このように「失われた20年」は男性の就業環境を大きく変化させたことが分かります。彼らの大半は自発的に就業を諦めたのではなく、就業機会さえあれば働きたかったはずです。

 「失われた20年」は日本経済から多くのものを奪いましたが、男性就業率の低下は、非常に大きな経済的損失を生み出しています。

 1990年が完全雇用だったと想定し、当時の就業率を基準に逆算してみると、足元の男性就業者は374万人も少ない計算になります。この分、日本の経済活動水準が低下しているのです。

 逆に考えれば、90年の就業率に回復するだけで、経済活動水準を引き上げることが可能です。供給面では労働力の拡大を通じて、需要面では個人消費の増加を通じて直接、国内総生産(GDP)を押し上げるわけです。

 その額を試算すると、男性就業者の減少によって失われた所得額が19兆円にもなります。GDPの4%近くに相当します。男性の就業率を引き上げるだけで、GDPを4%押し上げることができるのです。

 効果の大きさから考えても非常に有望な成長戦略と言えるのではないでしょうか。

 長期的な成長力という観点からも、男性就業率の引き上げは大きな意味を持つ。男性就業率の低下は、少子化や人口減少の一因になっているからです。日本の少子化の主因は結婚件数の減少にあります。

 結婚件数の減少にはさまざまな理由があります。男性側の事情としては、家計を支える経済力があるかどうかが鍵を握るわけです。 過去20年間の就業率低下によって、結婚件数が累計120万件「失われた」という結果が得られます。 ちなみに、2012年の結婚件数は67万件だったので、2年分の結婚件数が失われた計算になります。結婚すると平均2人の子どもを産むとすると、子どもの数は240万人下振れたことになります。

 特に、就業率が大幅に低下している若年層への対策は喫緊の課題です。

 若年男性の低い就業率を放置すると、キャリア形成の機会を失う。これは、国全体の生産性低下につながります。

 もちろん、男性の就業率を引き上げるのは簡単なことではありません。しかし、効果が表れた分だけ、確実に経済を押し上げます。

 女性とともに、男性の就業率を上げる方策に全力を傾注すべきときです。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2013年 10月 15日号より