「人を生かす経営」の推進に向けて 人を生かす経営推進協議会 代表 宮崎 由至氏(三重同友会相談役)

【特集】中同協4委員会(経営労働・社員教育・共同求人・障害者問題)合同研修・委員会

 1月29~30日に東京で中同協4委員会合同研修・委員会が開催されました。今回は研修・委員会の内容から人を生かす経営推進協議会代表宮崎氏の問題提起と4委員会各委員長からのまとめの概要を紹介します。当日行われた小暮共同求人委員長と山田経営労働副委員長の実践報告については後日掲載予定です。

時代を見て改める

 まずお話したいのは時代をどう見るかということです。今年の4月に消費税が上がりますが、25年前初めて消費税が導入されたときの行政の指導と今の行政の指導は違っています。当時は便乗値上げを絶対するなと指導されました。今では「適正なる転嫁」を呼びかけてきました。真逆のことを言っています。

 これは価格決定権が川上から川下に移ったということです。メーカーではなく、売り場の力が強まっています。25年での大きな変化であると思います。

 また、TPPによる経営環境の変化も予想されます。キーワードとされているのは「ブランディング」です。ブランドとは付加価値と信用の2つです。最近偽装問題があちこちで起きましたが、本来持たない付加価値を偽装したことにより信用が一挙になくなりました。付加価値と信用をつくるのはたやすいことではないです。

 もうひとつ、TPPと農業の話になると、必ず「6次産業化」という言葉が出てきます。しかし、実際はそう簡単に生産者である農家がおいしく加工できるシェフにはなれません。そう話したのは三重で1次産業に携わっている会員です。その人はこれから沖縄を基点にしてイスラム圏向けの食品加工をしようとしています。グローバル化に挑戦しているのです。

 「6次産業化」も「ブランディング」も手垢のついた言葉になっています。消費増税やTPPだから補助金頂戴ではなく、時代を見て攻めていく姿勢が大切です。

プラットフォーム

 当社は造り酒屋ですが、BtoCではアマゾンで一番購入されています。アマゾンでは本に始まり車や家まで売っています。アマゾンという巨大な売り場が出来上がっています。この売り場にどう載るかが商売につながります。こうした仕組みをプラットフォームと呼んでいます。

 われわれの身近にも利用できるプラットフォームはあります。同友会です。同友会はすごい大きなプラットフォームです。

 たとえば、全国展開している香川同友会の讃岐うどんの企業があります。全国に展開していても社員は全員香川県出身です。当社も三重県出身者ばかりですが、地元の人しかその企業を知らないのだから当然です。しかし、私は東京同友会の共同求人委員会が行っている合同企業説明会に参加しました。それで東京都での採用ができたのです。

 全国でつながっている同友会のネットワークをうまく生かしました。香川同友会の会員さんにも、東京や大阪同友会の合同企業説明会に参加するよう話しました。

 同友会をプラットフォームと見ることで新しいビジネスモデルができてきます。企業が連携して価値を生み出していく、こうしたことが今の時代であると認識していかなければこれからの経営は厳しいと思います。

後継者問題―組織と資金の継承

・2017年問題

 2017年に私たち団塊の世代が70歳になります。70歳になって経営者は事業承継を考えます。2017年ごろには一斉に事業継承が行われるのではないでしょうか。その際の事業承継には組織と資金という2つの継承が必要です。

・組織の継承

 組織別の年齢構成表を作成してみてください。10年後その中の何人が企業に残っているでしょうか。中小企業は人が足りなくなってはじめて雇おうと考えます。それでは理念の共有もできず、数年後の組織構成を考えないその場しのぎの組織になります。将来を見据えた戦略的な人事を考えることが必要です。

 そして、今から採用を考えて動いているのでは少し遅いです。大企業が採用を控え就職氷河期となった時期が続き「失われた20年」と呼ばれました。中小企業はそのときこそ採用をしないといけません。

 もし、これから大手がどんどん採用する「黄金の20年」がきたらどうしますか。中小企業には誰も人がきません。私はこの20年戦略的に採用をしてきました。

・資金の継承

 中小企業経営者のほとんどが個人保証をしています。優秀な社員を次の社長にしようと思っても、その人が個人保証を受け入れるでしょうか。その人が良くてもその家族はどうでしょうか。これは承継の中で大きな壁となります。

 私は自己資本比率を上げることを呼びかけています。これは利益を出すための計画を作らなければ絶対にできません。これがどれほど大変か皆さんに認識してほしいです。

見える未来と見えない未来

 「見える未来と見えない未来」があります。見える未来は2017年問題のように組織の年齢構成や自己資本比率を高めるために何が必要かといった事業承継への戦略です。見える未来に顔を背けている方が多いのではないでしょうか。それでいて明日の株価といった見えない未来ばかり見ています。

 迫る事業承継を見たくないかもしれませんが、必ずその機会は訪れます。

中小企業憲章のめざすもの

 三重県で三重県中小企業振興基本条例が制定され、補助金マイレージ制という制度を始めました。

 1回の投資額が補助金支給の要件を下回っても、5年以内に投資額の合計が要件を満たせば補助の対象とする仕組みです。障害者雇用を進めている企業は更に期間を延長できます。

 なぜなら、三重県では全国で一番障害者雇用ができていないのです。障害者雇用を条例に盛り込んで、補助金マイレージ制という施策に変えていく。4委員会の活動は中小企業からの意見として生かされてきます。

 行政に新しい政策を提言したら、「宮崎さんの提案は素晴らしいですが、前例がありません」と言ってきました。企業にとって前例のあることは二番煎じです。前例のないことをし続けなければ利益は生まれないことを私たち中小企業が伝えていくしかありません。

 自立した企業が関わる条例でなければ県民・市民は納得しないでしょう。県民・市民の納得しない条例なんて必要ありません。だからこそ地域にあてにされる企業に私たちがなり、地域を代表して意見を出してほしいのです。

人を生かす経営4委員会の連携へ

 経営指針がなければ、戦略が立てられず社員の採用が遠のきます。まして、障害者雇用はもってのほかです。そして採用後は社員が経営指針作成に参画できるように教育をしていきます。

 このように4委員会は経営の根幹で結びついています。これらは日々の経営の中で実践されているはずです。それを委員会として更に発展させ、連携することで更に経営を強靭なものにできるのではないかと思います。

 三重同友会が30周年を迎え、記念事業の1つとして私と代表理事との記念対談を行いました。

 そこで司会の方が「利益とは何ですか」と聞いてきました。私は「利益がないとより良い製品を顧客に届けられない。そして、社員の待遇が改善されない。だからこそ利益は取らなければいけないと思います」と答えました。

 そしたら、その司会は「では、社長はたくさん給料をもらわないといけないと思いますか」と聞いてきました。嫌な質問です。しかし、私も代表理事も「取れるだけ取った方がよいに決まっている」と同じ答えでした。

 ある経営者が給料をもらわず利益を全て社員に還元していると自慢していました。しかし、その人は他の事業で給料をもらっていたんです。それは偽善です、自慢にしてはいけません。「皆さんもいっぱい給料を取れるようにがんばってください」と締めたら拍手が起きました。これが経営者の本音だからだと思います。

 皆さんも本音で話し合い、皆さんで企業を良くしてほしいと思います。

「中小企業家しんぶん」 2014年 3月 5日号より