顔の見える小規模事業者へ政策の転換を~『2014年版中小企業白書』を読んで~

 今年の中小企業白書(以下、白書)は、政策立案側の強い思い入れが感じられます。今回の白書は、例年の2倍、最も厚い約900ページに上る大作です。

 昨年、白書の不可解な点として、「小規模企業と地域経済の自立」が「補論」に位置づけられていることを挙げました。その際、「地域内のつながりを強めることによって地域で生み出された付加価値が域外に流出せずに域内にとどまるようになり、持続可能な地域経済に実現を目指すことが可能となる」との注目される論考が述べられています。

 今回の白書では、「補論」にとどまらず、一歩踏み込んだ内容で、コネクターハブ企業(地域中核企業)が地域活性化の「鍵」となると位置づけられています。 コネクターハブ企業とは、地域の取引が集中しており(取引関係の中心となっているハブの機能)、地域外とも取引を行っている(他地域と取引をつなげていくコネクターの機能)企業を言います。

 コネクターハブ企業は、地域の複数の企業から仕入れ、自社で付加価値を高め、そして域外へと販売している。その結果、企業間の取引を通して、地域外から資金を獲得し、地域に資金を配分する中心的な役割を担っているとします。

 帝国データバンクの保有する企業間取引データ(いわゆる「ビックデータ」)で約70万社の過去5年分の500万件の取引データを用いて分析を進めているといいます。日本の主だった取引が1目でわかってしまうわけで結果は慎重に扱う必要はありますが、この面での分析が進むことが期待されます。

 いま、1999年の中小企業基本法の改正から15年、再び政策は転換点にあります。その転換の意欲を感じさせる白書となっています(裏を返せば、いよいよ政策転換を迫られた?)。

「成長志向のある中小企業を、より強くするための施策だけではもはや立ち行かなくなっている」(中小企業庁幹部)。一部の優良企業を積極支援することで全体を引き上げる支援だけでなく、地域に根ざし安定して継続することを望む圧倒的な「ボリュームゾーン」に広く手を差し伸べることが必要と考えるようになっています(「日刊工業新聞」5月2日付)。

 そう考える理由の1つが急速な企業数の減少です。以前から指摘してきたことですが、先進国で日本だけが中小企業・自営業の開業率が低迷し企業数が減少する、という「特異な現象」は歯止めがかかっていません。近年それが加速しています。仮に、2009年から2012年の間の減少率である年平均3・3%ずつ企業数が減っていった場合、20年後には中小企業の数は現在の約半分となってしまいます。危機感をここまであらわにしたのは初めて。中小企業の存立条件の急速な悪化をくい止め、中小企業の存立基盤の再構築をすることが急務の課題となっているのです。

 今回の白書の事例では、エイベックス(株)や大里綜合管理(株)をはじめ6社の会員企業が紹介されています。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2014年 5月 15日号より