3年で産業創造をやりきる!

『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』を読んで

 ある辛口の評論家が成功物語のような本は嫌いだと言った。自慢話を聞いても、ちっとも楽しくないからだ。しかし、本書には不覚にも感動してしまったらしい。「あらすじ」をかいつまむと。東京でIT系の会社の経営をしていた岩佐大輝氏は2011年3月11日、東日本大震災にあう。震災から3日後に故郷の宮城県山元町にたどり着いた。

 著者は、壊滅的な被害を受けた「絶望」に打ちひしがれた。「人生において何をなすべきか」ということをかなり本気で考えるようになった。

 山元町の名産のイチゴ農家の復興を頼まれる。今回の津波で、山元町に129軒あったイチゴ農家のうち、122軒が壊滅した。イチゴ作りをまるっきりの素人の状態から始めて、最先端技術を駆使した巨大イチゴ農園をつくり、1粒1000円の高級ブランドに育てるまでを、わずか3年足らずで達成したという物語である。

 著者の素晴らしいところは、経営とはROI(投資した資本に対して得られる利益の割合)の世界から、「その活動が、社会にどれだけ資するのか」こそを出発点にしなければ話は始まらないということに気づいたことである。

 そのビジネスをやることで、どのようなソーシャルインパクト(社会への良質な刺激)をもたらすことができるか。復旧、復興したところで寂れた町が再びできあがるのでは意味はない。もっと若者が集まってくる町に、もっと夢を持てる、誇りが持てる町にしなければ。いま、この町に必要なのは、「復興」を超えた「創造」なのではないかと。

 ここまでは社会起業家ならば考えつくかもしれない。しかし、著者は壁に打ち当たったら、ひとつ1つを人に聞きまくり、イチゴ作りの資材やノウハウをノートに書き出した。そこで、意外に形式知化されていないことに気づく。インターネットで検索しても情報は全然見つからないのだ。また、全国の「すごいイチゴ農家」をほとんど回った。こちらにビジョンと熱意があれば、応えてくれない人などいないことも知る。

 著者の経営者として成功の法則がたった1つあるとしたら「さっさとやれ」である。さっさとスタートして、さっさと失敗することが大事であること。PDCAサイクルを早く回せば、それだけ成功は近づく。大切なのは、最初から完璧を求めすぎないこと。「7割くらいの準備」を終えた段階でスタートするくらいがちょうどいいのである。

 イチゴ農家は年収を上げようと畑を広げても、人件費がかかってしまうため儲からない仕組みが出来上がっていた。この構造は変えられるのか。

 「スマートアグリ」というオランダ型の農業があることを知り、オランダに飛ぶ。その光景は衝撃だった。ハウス全体が、コンピュータで管理されていた。収穫も、日本の単位面積あたり3倍くらいの量が採れるのだ。ここで、職人の「伝統の技」を形式知化できれば、一気にレベルアップできるという発想に結びつく。iPadやセグウェイを乗りまわす農場が出来上がって行くのである。

 どうやら、頼もしい若者がまた現れたらしい。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2014年 6月 15日号より