相手の事情に精通せよ

国際標準規格化競争を勝ち抜く

 いま、問題・課題解決の際に焦点となっているのが、ルール・メーキングの考え方です。ルール・メーキングとは、新たな規則・規範をつくりだし、従来の枠組みを乗り越え、課題解決することです。

 例えば、資金調達において、不動産担保と人的担保を担保にした従来型の融資に加え、最近は売掛債権の譲渡担保と在庫動産の譲渡担保を組み合わせた融資方法(ABL)や経営者保証制度の見直しが注目されています。これなども、従来の資金調達では借りられない人々に新たな規則をつくりだし資金が借りられるようにしたり、人的担保なしで融資するというルール・メーキングです。

 ただし、ルール・メーキングが国内の規則・規範を生み出すだけなら問題がないのですが、海外のルールに適応できずにいると日本国内市場さえ失うリスクが現実のものとなっています。

 例えば、携帯電話市場。NTTドコモ主導によるフィーチャーフォン市場であったため、日本企業はスマートフォンの開発着手に完全に乗り遅れ、アップルやサムソンが最新式のスマートフォンで日本市場を席巻し日本企業は国内市場でさえ喪失しつつあります。

 いかに日本の技術が優れているとしても、日本方式に固執し日本方式を国際標準規格化にする努力は水泡に帰すリスクがあります。

 鉄道インフラの輸出で考えましょう(江崎康弘『グローバル鉄道事業へ活路を見出す日本企業の事業戦略』社会科学論集・埼玉大学経済学会)。新幹線は日本の高い技術力と安全性は内外ともに認識されているのは事実ですが、この新幹線の特長が必ずしも相手にとってメリットとなり、歓迎されているとは言い切れないのです。

 フランスのTGVは高速新線から在来線への直通を前提にしてシステム構築をしてきたため、乗り換えの手間が省けるとともに、新たな土地収用などのために建設費を省略でき、工費の低減と工期短縮を図れるメリットがあります。

 ヨーロッパでは、EU統一市場形成の交通政策として域内共通の鉄道網構築が行われました。結果、シーメンス(ドイツ)、ボンバルディア(鉄道部門はドイツ、本社はカナダ)およびアルストム(フランス)のビッグスリーが3社合計で世界の鉄道車両市場の約50%を占めています。これに対して日本企業は全社で約10%でしかありません。鉄道分野では、多様な技術分野での国際標準規格化競争を常に先導しているヨーロッパ方式に合致する製品開発を行うべきとの論が有力になります。

 こうした海外戦略を考えるうえで貴重な事例を提供しているのが日立製作所です。2012年、イギリス高速鉄道の案件として、車両約600台の納入契約の5500億円および30年間におよぶ車両リースやメンテナンス契約を含めると総額1兆円超の輸出契約を獲得しました。

 ここでは、イギリスの鉄道安全規格をクリアーしたうえで、在来線事情に合わせた新幹線在来線直通方式の列車開発をしたことが成功の要因の1つと言われています。

 このような柔軟な海外戦略を日本企業が採るべきでしょう。ルール・メーキングのあり方の1つとも言えます。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2014年 8月 15日号より