V字型回復はなく、L字型へ

景気に「まさか」はあるのか

 景気には3つの坂があるそうだ。上り坂、下り坂、そして「まさか」。米シティグループによれば、指標の実績がすべて予想を下回る場合をマイナス100%として、足元の日本はマイナス80%近辺まで落ちているようだ。見通しに比べて、消費税引き上げ後の景気は「まさか」の下振れを起こしているというのが日本経済新聞の編集委員、滝田洋一氏の見立てです(「日経新聞」8月31日)。

 しかし、本当に「まさか」の出来事なのでしょうか。消費増税後に十分予想できたことではなかったか。本欄は、DOR(同友会景況調査)などで「実質所得の悪化が深刻化しており、ボディブローのように効いてくる」と再三警鐘を鳴らしていました。「まさか」派の人たちは、消費税引き上げの影響は4~6月期には出るけれども、7~9月期にはV字型回復を遂げていると豪語していました。

 DORで検証をしてみましょう。4~6月期から7~9月期の前年同期比の業況判断DI(「好転」―「悪化」割合)は△1→△5と悪化し、足元の景況を示す業況水準DI(「良い」―「悪い」割合)は△8→△6と若干のプラスにふれました。

 業況判断DIの見通しを4~6月期の段階で、7~9月期が6、10~12月期が7と読んで回復軌道を描いていましたが、実際は7~9月期が△5であり、真逆の結果。今期の見通しは、10~12月期が△2、2015年1~3月期が△8と予測しており、2014年1~3月期の駆け込み需要と比較しての数字とはいえ、上昇しているとはいえません。つまり、V字型回復を予想する向きも多かったが、実際はL字型に近い形で推移する可能性が高いのです。

 これは当然景気判断が消費税の再増税(10%)の決定にも影響を及ぼします。ここにきて、消費税の再増税延期を求める論調が、海外の有力メディアで高まっているのです(「アエラ」9月29日号)。

 9月11日付の米紙ニューヨーク・タイムスの社説では、「日本経済は4~6月期に前期より7・1%も縮んだ。政府が間違った政策を変えない限り、ようやく回復してきた景気が失速しかねないことを示している。…来年予定される再増税は延期すべきだ」。8月29日付の英経済紙のフィナンシャル・タイムスも社説で再増税の延期論を展開しました。余計なお世話とも言える社説だが、再増税によって景気が完全に腰折れすれば、世界経済にも悪影響を与えかねないという判断からだと思えば納得もできます。

 景気悪化は同友会会員の意向にも反映します。5月調査の時点から9月実施の「消費増税影響調査」(回答企業3659社)に変化が現れてします。10%計画を「実施すべき」が25%→20%、「中止すべき」が24%→26%、「延期すべき」が28%→40%、「わからない」が23%→15%と、延期を求める声が4カ月間に急増しました。「中止」「延期」が、52%から66%に増えています(本紙1面参照)。

 「まさか」の下振れを起こしている日本経済。景気悪化は一時的として、再増税へ突き進むのでしょうか。もう、「まさか」では通じません。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2014年 10月 15日号より