異次元金融緩和の中小企業への影響 「ほとんどなし」 立教大学 准教授 飯島 寛之

地域・中小企業が明るい景気展望もてる環境整備こそ必要

【同友会景況調査(DOR)2014年7~9月期オプション調査から】

 日本銀行が「異次元」と呼ぶデフレ脱却をめざす大胆な金融緩和策が導入されてから1年半。それは中小企業にどのような影響を与えたのか――。

 同友会が「“異次元金融緩和”の影響」に関するアンケートを実施したところ、「影響は感じない」との回答が6割を超える結果になりました。10月の金融政策決定会合でも「金融緩和は所期の効果を発揮」していると強気の姿勢を貫いた日本銀行の黒田総裁の発言とは裏腹に、異次元金融緩和は、中小企業にほとんど影響を与えていないことが明らかになったといえるでしょう。

増えない中小企業融資

 「金融緩和」とは日本銀行が市中の銀行に資金を潤沢に供給することで、金利を低く抑えながらお金の巡りを良くして経済を活性化させようというものです。したがって、資金の借り手の立場からすると、金融緩和によって通例期待される効果・影響は、資金借入環境の改善、そして借入の増加ということになります。

 そこで「金融機関からの借入資金の増減」を聞いたところ、「変わらない」(33・7%)、「借入を減らした」(24・3%)、さらに「この先半年以内に借入予定なし」(14・7%)という回答が合計で7割を超える結果となりました(図1)。一方、金融緩和によって期待された「借入を増やした」との回答は26・0%にとどまり、大方の中小企業にとって異次元緩和が借入を増やす要因にはならなかったことが明らかになりました。

 とはいえ、借入環境は好転している部分もあったようです。「金融緩和による影響」(複数回答)を尋ねたところ、「借入金利の低下」(24・0%)、「金融機関の貸出態度の好転」(14・6%)など資金借入環境の改善を挙げる企業もみられました(図2)。ただ、「借入金利の低下」を挙げる企業は、企業規模が大きいほど高くなっており、20人未満(19・2%)と100人以上(37・6%)の企業とではほぼ2倍の差が開きました。また、金融環境のみならず、「景気回復・業績改善」(6・9%)を感じている企業もありましたが、これらの好影響をはるかに超える企業が「影響は感じない」(62・9%)と回答しており、異次元緩和は中小企業にほとんど影響を及ぼしていないといえるでしょう。

借入増加の条件

 では、借入が増えるためには何が必要なのでしょうか。「借入が増えるための必要条件」(複数回答)を尋ねたところ、「既存制度への政策的支援」(26・9%)、「新しい政策的支援」(23・4%)など、政策的な支援の必要性を挙げる企業もみられましたが、それ以外の2つの回答が群を抜く結果となりました(図3)。ひとつは、「景気の回復による設備投資意欲の高まり」(47・8%)です。このことは、いかに資金調達環境が改善しても、売上や収益が改善しなければ借入に踏み切れないこと、逆に、将来への明るい見通しがあれば借入に積極的になる可能性があることを示しています。

 いまひとつ多くの回答が寄せられたのは、「担保や保証人をなくす」(46・7%)でした。このことは、中小企業に資金需要があること、そして金融機関の求める担保や保証といった高い壁がその需要を掘り起こす障害になっていることを示していると考えられます。なかでも、企業規模別では20人未満の企業規模、業種別ではサービス業において「担保や保証人をなくす」との回答が過半数を超えており、担保や保証人に依存しない借入を強く求めていることが明らかになりました。

「経営者保証に関するガイドライン」の理解進まず

 金融機関もこうした事態を把握し、「壁」を低くしようとする試みが進んでいます。全国銀行協会と日本商工会議所などは、「経営者保証に関するガイドライン」((1)会社と経営者の資産分離、(2)財務基盤の強化、(3)経営の透明性が確保された場合、保証に依存しない融資を検討するとの指針)を策定し、本年2月から適用を始めています。

 同友会会員企業も利用を始めているこの「ガイドライン」の認知度、利用状況についても尋ねた結果、「利用している」(9・9%)、「検討中」(28・3%)、「予定はない」(21・9%)など「知っている」ことを前提とする各回答を抑えて、「知らない」とする回答が4割に達しました。中国・四国地方では、「知らない」とする回答が過半数を超えています。「ガイドライン」実施については、「個人保証をする覚悟のない経営者を信用するのは難しいと言われた」(愛知、機械販売・修理)など、金融機関との交渉の難しさを指摘する声も多数報告されています。しかし、今回の結果は、まずはその存在と内容を知ることから始める必要を示しているといえるでしょう。

中小企業憲章に沿って検証を

 そもそも日本銀行がいくら銀行に資金を供給したとしても、銀行貸出が増えるわけではありません。「明るい景気展望」をもった借り手が現われることによってはじめて、またそうした資金需要者が円滑に借り入れできる環境が整うことで市中にお金が出回ることになります。そうした条件をつくるのは政府の仕事です。ところが実際には、インフレ期待を煽ることで経済を上向かせようという異次元金融緩和が、緩和後に急伸した円安下でコスト高といった副作用をもたらし、それが中小企業を圧迫する重石になっていることが問題です。「中小企業の声を聴き、どんな問題も中小企業の立場で考え、政策評価につなげる」との中小企業憲章「基本原則」に沿って、政府・日銀は今回の事態を検証するべきでしょう。

 今回の「“異次元金融緩和”の影響」に関するアンケート調査は、9月1~15日にかけて行われた7―9月期の景況調査(DOR)に付随して行われ、1000社以上の回答を集計しました。

「中小企業家しんぶん」 2014年 11月 15日号より