戦後70年、人間回復のルネサンス~元旦の新聞各紙の社説を読んで~

 2015年の元旦社説は各社申し合わせたように、「戦後70年」をふり返った社説がそろいました。

 「戦後70年の統治のかたちづくりを」(日本経済新聞)、「戦後70年、脱・序列思考のすすめ」(毎日新聞)といった具合。歴史の節目を意識する新年を迎えたと言えます。本欄では、過去、現在、未来に分けて整理したいと思います。

 まず、「過去」。「冷戦の崩壊と中国、韓国の急速な台頭などで、歴史認識をめぐる溝が顕在化」(河北新報)しました。過去をめぐる歴史認識は複雑なものがありますが、新聞社も戦前の翼賛報道の反省に立って、権力を監視する義務と「言わねばならぬこと」を主張する責務をもっています。

 戦後70年の今年、「発表を予定している首相談話は近隣諸国との関係に影響を及ぼすだけでなく、米国はじめ世界も注視していることを知っておくべきだ」(日本経済新聞)と釘を刺されますが、はたしてどうなるでしょうか。

 「対立を繰り返してきた欧州は欧州連合(EU)を通じて『平和の制度化』に成功した。単純には比べられないが、序列よりも並列という意識を定着させた過程には、東アジアも学ぶところがあるはずだ」(毎日新聞)とは、けだし至言。

 それでは、「現在」。「象徴的なのは昨年12月の衆院選だ。小選挙区の投票率は戦後最低の52・66%だった。政策選択肢が乏しかったことなどいろいろあるにしても、国政選挙で若者を中心に半数近くが棄権する状況は、議会制民主主義の空洞化というほかない。『おまかせ民主主義』や『消費者民主主義』と呼ばれる受け身の姿勢」(京都新聞)を変えるには、子どもの時から学校で主権者教育の実施を提言しています。

 そして、「安倍首相の経済政策はつまるところ、『企業が強くならなければ雇用も生まれない。まずは企業活動を応援する』というものだ。しかし、企業からの『滴り』はわずか。産業構造が変わったからだ。逆に、格差を放置しては、企業業績も押さえ込まれることになる。社会は荒廃していく」(北海道新聞)とします。解決の糸口として、奪い合いのシェアから分かち合いのシェアを提唱します。分かち合う社会への道筋をどのように描くかですが…。

 その課題を模索するのは「未来」。世界的ベストセラーの『21世紀の資本』が話題に。フランスの経済学者トマ・ピケティが過去200年以上の欧米諸国のデータを駆使し、資本主義では格差が広がり、今後も不平等が拡大していくとの結論を導き出しています。

 「資本から人間中心の社会を取り戻さなければなりません。経済学者や物理学者からは定常型社会が提唱されています。無理な成長を求めないゼロ成長の社会です。人口減と高齢化、エネルギー資源や環境の制約の中ではゼロ成長も容易ではないようですが、成長より社会の安定の価値転換が肝心。成長を超える人間中心の新しい社会への兆しもあるようです」(東京新聞・中日新聞)。

 年頭社説は、私たちに熟慮と覚悟を促しているように思えます。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2015年 1月 15日号より