【同友会景況調査(DOR111号)2015年1~3月期 オプション調査】速報 賃上げ決定・予定6割-慎重姿勢も根強い

 中同協は2015年度の賃上げ予定について会員企業を調査し、47都道府県1055社分の集計をまとめました。

賃上げ決定・予定58%

 調査を実施した3月1~15日の時点で、2015年度の賃上げ(定昇を含む)を決定している企業(17・4%)と予定している企業(40・4%)は合わせて57・8%でした(図)。日本商工会議所の賃上げ予定調査結果(43・8%、3月31日発表)に比べると高い水準です。しかし中同協の2014年の賃上げ意向調査(54・9%、2013年10~12月期実施)と比べると微増で、賃上げは力強い広がりではありません。また賃上げの是非を検討している企業が23・3%、未定の企業が14・3%と、4割近くの企業で慎重姿勢が根強くあります。

 「消費増税分と物価上昇分を販売価格に転嫁できず、また景気の低迷感から受注次期がずれてしまった(神奈川、建設業)」の声があるように、増税不況・物価高がその背景にあります。これらが払拭されることが必要です。

 一方、賃上げしている企業では「残業を申請制にした。“上司が残っているから”と主体性のない残業をやめ、集中して生産性を上げてもらいたく、達成感を味わってもらいたいため。その結果基本給をアップする(千葉、製造業)」など生産効率を高めて賃上げ財源を捻出する努力が見られます。社員一丸となり賃上げに向けて努力する志気の高い企業づくりがカギになっています。

赤字企業でも4割が賃上げ~社員と賃上げ計画の議論を

中同協・企業環境研究センターでは、2015年1月~3月期の同友会景況調査(DOR、1055回答、平均正規従業員数36・7人)のオプション項目として2015年度の賃上げについて調査しました(1面に概要)。その結果を紹介します。(中同協主任事務員・中平智之)

「100人以上」規模で68%、「5人未満」で25%。規模の差が鮮明。

 賃上げ決定・予定の企業を業種別に見ると、建設業と製造業が6割を超えた一方、流通・商業が52・3%と他と比べて少ない割合でした。

 企業規模別に見ると、100人以上で68・1%の一方、5人以上10人未満で53・2%、5人未満で25%と小規模企業で低くなっています。

 「検討」、「未定」が多くあり今後変化する可能性はありますが、規模の差は鮮明です。小規模企業での賃上げ環境の整備が大きな課題です。

 地域経済圏別に見ると、近畿と九州・沖縄で6割を超えた一方、北海道・東北が54・3%と比較的少なくなっています。地方圏の中でも状況が異なります。

 賃上げを決定・予定している企業では「定昇のみ」(34・7%)と「定昇&賞与」(30・6%)がそれぞれ3割を超え、「定昇&ベースアップ」は20・5%でした(図1)。

「3%以上」賃上げは約2割にとどまる。

 「定昇&ベースアップ」を業種別に見ると建設業とサービス業が比較的多く、企業規模別では規模が大きいほど多くなっています。地域経済圏別では北海道・東北が多くなっています。

 賃上げ水準では「2%以上3%未満」(38・6%)と「1%以上2%未満」(32・6%)を合わせて7割を占めました(図2)。

 「3%以上」は約2割にとどまり、増税分・物価上昇分をカバーするのは困難な状況です。

赤字企業でも4割が賃上げ。景気回復と価格転嫁が条件。

 求人難が指摘されている建設業やサービス業では他業種より「4%以上」の賃上げ企業が多くなっています。

 一方、1~3月期に赤字となった企業でも約4割が賃上げを決定・予定しており(図3)、その水準は「1~2%未満」が多くなっています。賃上げへの慎重姿勢がいまだ強いなか、求人対応で賃上げを迫られている側面がうかがえます。

 賃上げを決定・予定していない企業に賃上げが困難な理由を聞くと「売上受注の不振」が54・6%と多く、「賃上げより雇用維持を優先」(33・9%)、「賃上げ分を販売価格に転嫁できない」(32・8%)と続きました(図4)。

 賃上げが力強く広がるためには消費増税以降に低迷している中小企業景気の回復と、価格転嫁できる取引環境が必要条件です。

経営者・経営幹部が決める企業が大半。

 賃上げの決定方法(複数選択)は「ほぼ経営者の独断で決める」が45・8%、「幹部間で協議する」が44・8%でほぼ同水準でした(図5)。「社員の意見を聴取する」は11%にとどまりました。多くの企業においてその時々の業績に応じて機敏に対応する必要性から経営者・経営幹部が専断している様子が伺えます。「社員から選出された代表と協議する」、「労働組合と協議する」はいずれも2・7%と少数でした。

「社員の意見を聴取する」小規模企業で最も多い。

 企業規模別に見ると「ほぼ経営者の独断で決める」のは20人未満で他の規模に比べて多くなっています(20人未満54・5%、20人以上50人未満40・5%、50人以上100人未満33・6%、100人以上31・8%)。

 一方、「社員の意見を聴取する」についても20人未満が最も多い(同じ順番で15・9%、8・3%、5・8%、1・5%)ことから、同じ20人未満でも賃上げ決定方法は多様です。

賃上げについて社員と話し合う風土を

 社員の生活を保障するのは経営者の責任であり、賃上げを実現するための資金計画・利益計画が不可欠です。同時に、中小企業において一人ひとりの社員やその家族が見えやすい特性を生かし、賃上げについて社員の要求を聞き賃上げ計画を議論することは、民主的で志気の高い経営組織をつくることにつながります。

 そのことを通して付加価値を向上させ、利益体質を高め、賃上げできる体力を備えていくことが今ますます重要な課題です。

「中小企業家しんぶん」 2015年 5月 5日号より