親しみを感じる『中小企業白書』を

~『2015年版中小企業白書』を読んで

 今年の中小企業白書(以下、白書)は、中小企業白書とともに第1回目の小規模企業白書が同時に出されました。昨年の白書が約900ページを上回る大作でしたが、今年は白書で約720ページ、小規模企業白書で約460ページ、合わせて約1180ページにもなります。はたして、1000ページを超える白書を読みこなす人は何人いるのでしょうか。両白書をどのように受けとめるのか、受けとめる側を配慮した形跡はありません。

 問題は量はともかく内容だと言う向きもあるかもしれません。しかし、小規模企業白書の第2部は事例のみで構成されています。約150ページにわたり42事例で構成されており、外注に頼んでもできてしまうと思わせる内容です。両白書からは文字ごと消滅してしまった「中小企業憲章」に沿って分析したらもっと論ずべき項目があるような気がします。

 白書では、第3部が読ませます。テーマは「『地域』を考える。―自らの変化と特性に向き合う―」。データに基づく地域振興の具体的振興策がミソです。

 2014年版白書ではコネクター・ハブ企業(地域中核企業)がキーワードになりましたが、経済産業省では2015年「地域経済分析システム」の開発を進めて、4月より供用を開始しました。このシステムは、公的統計や民間企業が保有する各種データ(企業間の取引データや携帯位置情報など)を活用して、地域経済における産業構造やヒト・モノの流れを、面的(空間的)かつ時系列に把握することを目的とするもの。このようにデータを可視化することで、地域がどのように見えてくるのか、システムの実際の出力画面を用いながら検証します。

 「地域経済分析システム」は、(1)産業マップ、(2)人口マップ、(3)観光マップ、(4)自治体比較マップの4つのマップから構成されています。(3)観光マップのFrom‐toマップ(滞在人口)は、携帯電話の位置情報データにより、例えば、埼玉県の観光地である川越市と秩父市の休日の人の流れを比較すると、交通網の違いもあり、川越市は広域から人が流入し、秩父市は近隣から人が流入している状況であるといった具合。

 このようなデータを組み合わせて見ていくことで、産業政策にとどまらず、都道府県及び市町村による「地方版総合戦略」の策定の場面での活用も期待されるとしています。「地方版総合戦略」とは、政府が地方創生の基本方針を示し、市町村に至るまで地方版総合戦略の作成に着手しようというもの。今年度中の策定が交付金にも反映されるから必死です。

 政府が「地域経済分析システム」という“助け舟”を出した形ですが、中小企業との関わりがより鮮明になるデータを望みます。これをきっかけに中小企業振興基本条例との関連が明確になるからです。中小企業振興基本条例の必要性が自治体に認識されることを期待します。

 今回の白書の事例では、6社の会員企業が紹介されています。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2015年 5月 15日号より