マイナンバー・法人番号制度の対応状況について【「同友会景況調査(DOR)2015年7~9月期」オプション調査より】

中小企業での負担大きい

 中同協企業環境研究センターは、来年1月に開始される「マイナンバー(社会保障・税番号)制度」とマイナンバーの企業版である「法人番号制度」について、景況調査(DOR)対象企業に対応状況や対応の負担などについてアンケート調査を実施しました。

調査要項

調査時点 2015年9月1~15日
対象企業 中小企業家同友会会員
調査の方法 郵送により自計記入を求めた
回答企業数 2,446社より1,030社の回答をえた(回答数42.1%)(建設180社、製造業332社、流通・商業307社、サービス業199社)
平均従業員数 役員を含む正規従業員 37.44人 臨時・パート・アルバイトの数 27.66人

 結果によると、対応完了と対応中を合わせて45%にとどまり、半数以上は対応できていないこと、対応できていない理由としては「どう対応してよいかわからない」が51%にのぼり、対応への戸惑いが明らかになりました。

対応踏み出せず

 マイナンバー制度の対応状況については「対応は完了した」がわずか1・4%、「対応中である」の43・7%と合わせても45・1%と半数にとどきません。これ以外の半数以上の企業では対応に踏み出せていない状況です(図1)。 これを従業員規模別にみると、「対応中である」が100人以上で68・1%の一方、20人未満では34%と30ポイント近い差があります。規模の小さい企業ほど対応に遅れがあることが分かります(図2―1)。

 地域別では、北海道・東北で「対応中である」が51・5%の一方、近畿で39・8%にとどまるなど地域によっても対応に差があります(図2―2)。

 従業員規模、地域によって情報の取得環境や支援施策に差が生じている可能性があり、検証が求められます。

 「対応できていない」、「予定していない」と答えた企業にその理由をたずねた結果、「どう対応してよいかわからない」が50・8%と多く、「対応の必要性を感じない」が12・8%、「制度自体がわからない」が11・7%という結果でした(図3)。必要性を感じない、制度が分からないがそれぞれ1割程度ある一方で、多くはどのように対応してよいか分からないという状況です。

 政府がマイナンバー制度を推進するうえで、その対応内容を明確にして広報することが求められますが、今回の調査で半数以上が「どう対応してよいかわからない」と答えたことは、政府における制度設計やその広報内容が、中小企業経営の実態に照らして少なくない齟齬(そご)があることを示しています。「どんな問題も中小企業の立場で考え、政策評価につなげる」(中小企業憲章[2010年6月18日閣議決定])ことが重要です。

制度そのものへの不信感

 次に「対応は完了した」、「対応中である」と答えた企業にその対応内容をたずねた結果、「社員への周知方法の検討」が65・4%と最も多く、「基本方針・取扱ルール等の策定」(56・1%)、「社員やその家族のマイナンバー把握・登録・管理方法の整備」(54・8%)、「情報セキュリティの整備」(43・0%)とつづきました。「安全管理措置の整備(組織的・人的・物理的・技術的」は36・2%にとどまりました(図4)。

 マイナンバーの情報漏えいリスクが懸念されるなか、重要な分野である安全管理措置の整備に向けた取り組みが一部にとどまっています。各企業において早急に対策を進行する必要があります。一方、安全管理措置を整備したとしても、そもそもの制度が「プライバシーのことで悪性であり心配(北海道、流通・商業)」のように制度設計そのものへの不安感・不信感が根強くあり、政府にはこれに対する説明責任と厳格な運営が求められます。

業種・企業規模ごとに負担感に相違

 同じように「対応は完了した」、「対応中である」と答えた企業に対応の負担をたずねた結果、「情報漏えいリスク」(55・4%)と「業務の煩雑化」(55・2%)が並んで多く、「業務量増加」(46・2%)、「コスト増加」(29・7%)が続きました(図5)。

 規模別に見ると、規模の大きい企業の方が小さい企業よりも「業務量増加」、「情報漏えいリスク」の回答比率が高い傾向があり、業種別に見るとサービス業で「業務の煩雑化」と「情報漏えいリスク」の回答比率が他の業種より高くなっています。業種・企業規模ごとに負担感の特徴を踏まえたきめ細かい対策が求められます。

経営努力にマイナス影響

 対応のコスト負担は「10万円以上50万円未満」が30・2%と最も多く、続いて多い順に「わからない」(21・9%)、「10万円未満」(19・9%)、「費用はかけない」(11・7%)、「50万円以上100万円未満」(11・5%)となりました。企業規模別に見ると20人未満では「費用はかけない」(16・3%)、「10万円未満」(27・5%)と他の規模よりも多くなっており、費用負担はおさえて社内体制で対応する姿勢がうかがえます。

 いま中小企業は先行き不透明な景気とデフレを脱しない状況のなか、社内体制を総動員して仕事を生み出し、付加価値を高めることに力を集中して貴重な成果を得ています。DORの採算水準DIは改善を続けています。マイナンバー制度の負担が中小企業の経営努力にマイナスの影響を及ぼさないよう、政府は観測を実施すべきです。

「中小企業家しんぶん」 2015年 10月 25日号より