中小企業憲章の公益と共益

マグナ・カルタ(大憲章)制定800年記念に寄せて

 日本ではほとんど話題になりませんでしたが、今年は中世イングランドで王の権力を制限する「マグナ・カルタ(大憲章)」が制定されてから800年のメモリアル・イヤーだったそうです。

 貴族や教会、商人たちがジョン王の悪政へ猛反発し、1215年6月15日、ジョン王に「王もルールに縛られる」とする63カ条の誓約書に署名させました。このラテン語の文書がマグナ・カルタ。権力者に恣意的(しいてき)な政治をさせないために、議会制民主主義や立憲主義の原点とされるゆえんです。

 日本の安全保障関連法をめぐる議論では、立憲主義の危機が叫ばれただけに、あらためてマグナ・カルタについて考えるのも一法ではないかと思われます。

 そもそも、中小企業憲章の「憲章」とは何かと話題になったときに、マグナ・カルタも話のたねとして登場しました。「憲章」の語義の一例として、契約的性質をもつ国家の根本法に付される名称の代表例で大憲章(マグナ・カルタ)が挙がっていたからです。

 そのマグナ・カルタの地でおもしろいことが起きました。イギリス小企業連盟(FSB)という同友会と同じような自主的独立的な中小企業経営者の団体が、1992年に「小企業連盟宣言・企業憲章」を提言しました。それが、8年後の2000年にEUで採択された「ヨーロッパ小企業憲章」に反映・結実しました。

この8年間でFSBは連盟員を6万人から13万人に増やし、イギリス最大の企業者団体となりました(三井逸友嘉悦大学教授からご教授いただいたこと)。

 やはり、質量の充実こそ目的・理念を実現する力となるのは、洋の東西を問わない真理のようです。

 一方、日本では私たち中小企業家同友会が2003年に初めて中小企業憲章を提起し、7年後の2010年に閣議決定として採択されました。偶然とはいえ、ヨーロッパの経験を追体験するような経過をたどりました。会員数も2009~2015年の6年連続で最高会勢(4万5000人)を更新し、FSBの13万人には及びませんが、日本の他の中小企業団体が大幅に会員数を減らしている中では奮闘しているといえます。

 これは、「共益から公益へ」中小企業憲章が社会で認められる局面と、中小企業憲章が制定されて、「公益から共益へ」同友会への信頼によって会員参加・会員増強が進む局面があり得ることを示しています。

 もちろん、同友会だけの貢献とはいえませんが、同友会の多くの人びとが多大な時間を中小企業憲章の学習に費やしました。「自社分析」が経営指針づくりの内容の刷新と運動の幅を広げる可能性をもっていることなど経営と結びついた中小企業憲章運動にも発展させることができました。そのような学習の質量も中小企業憲章の制定につながったと理解したいところです。

 800年の時を経てよみがえるマグナ・カルタの精神。私たちには中小企業憲章をより内容の豊かなものにしていく責任と自覚が求められています。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2015年 12月 15日号より