連載【独立中小企業と「労使見解」】第1回 情勢が中小企業に要求するもの

嘉悦大学ビジネス創造学部学部長・教授 黒瀬 直宏

嘉悦大学ビジネス創造学部学部長・教授 黒瀬 直宏

 経営環境が変化する中、中小企業のあり様が問われています。『独立中小企業を目指そう―独立企業化、人間尊重、労使連携、社会変革』(同友館発行)を執筆した黒瀬直宏・嘉悦大学ビジネス創造学部学部長・教授が「中小企業における労使関係の見解」(労使見解)の重要性と「独立中小企業」の意味について3回連載で解説します。

 2016年は世界同時株安の激震で明けました。この意味することを考えて見ます。

 日本は1991年に「バブル景気」が崩壊し、長期の経済停滞に突入しました。高度成長期以来の輸出・設備投資主導型経済成長の仕組みが崩壊したからです。

 高度成長は(1)最新鋭の設備・技術で武装した大量生産型重化学工業が輸出を拡大し、(2)そのために行った設備投資が国内完結型生産体制を通じて国内各部門に波及すること(「設備投資が設備投資を呼ぶ」)―により起きました。

 しかし、90年代に入ると、IT革新への乗り遅れと1992年からの円高で重化学工業の中心、機械工業の輸出競争力が衰退しました。機械工業大企業は低賃金労働力の利用による競争力回復を狙い(後には拡大する現地市場を求め)、生産拠点の東アジアへの移転を急速化し、国内完結型生産体制は東アジアベース生産体制に変化し、国内設備投資も減退しました。

 こうして、日本は成長を為替レートや海外景気に左右される受身型の輸出にしか頼れなくなり、経済は停滞化し、90年代の成長率は欧米を下回ることになりました。

 ところが、日本に比べ相対的に好調だった欧米も2008年のリーマンショックで暗転します。

 アメリカは90年代以降日本より好調だったとはいえ、実物経済での収益力は衰退し、利潤を求める資本は投機的な金融取引へ向かい、金融業の全産業利益におけるシェアは1984年9・6%だったものが2002年には30・9%にも達しました(水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』)。この金融投機の崩壊がリーマンショックであり、実物経済にも波及(2009年GM倒産・一時国有化)、アメリカとその影響を受けたヨーロッパも成長率を下げ、日本のみならず世界経済が長期停滞段階に突入しました。

 そして、中国です。途上国特権とでも言うべき高成長を続けてきましたが、リーマンショックは大規模な財政出動で乗り切ったものの、それが過剰設備・過剰生産をもたらし、リーマンショック後の成長率9%以上が、2012年以降は7%台に、2015年は6・9%へ低落、中国経済の先行き不安が拡大し、本年の世界株安を引き起こしました。

 中国には中間層市場開拓による内需拡大の道がありますが、それには技術革新という壁があり、成長率はまだ低下するでしょう。2008年のリーマンショックが世界経済の長期停滞段階移行への口火となり、本年早々の世界同時株安はついに「世界の工場」中国も巻き込んだ、その本格化を意味すると言えそうです。

 この情勢は中小企業に生き残りのために「自分の仕事は自分で創(つく)りだす」独立中小企業への革新を要求しています。それは中小企業のためだけではありません。今までの実物経済の中核は大企業で、中小企業の多くは受身的存在でした。中小企業が独立企業化し、実物経済のもう1つの中核になれば、新たな原理に基づく経済・社会の構築ができます。

 「次の」社会を切り開くためにも独立中小企業化が必要です。次回は独立中小企業への変革の道を探ります。

(次号に続く)

「中小企業家しんぶん」 2016年 2月 5日号より