中国経済の減速と国内需要拡大、中小企業のチャンスは? 緊急情報交換会を開催【東京】

 東京同友会は1月20日に中国経済をめぐる緊急情報交換会を開催、植田浩史 慶応義塾大学教授(中同協 企業環境研究センター副座長)が助言者として参加しました。その概要を紹介します。

減速しつつも成長つづける巨大市場

司会/松林信介 東京同友会専任理事 中国現地の状況はいかがですか。また中国の将来、日本への影響についてお聞かせください。

A氏(日中間の中小企業のビジネス交流・人材教育) 中国経済は減速していますが、電気自動車やメカニックロボットなど新事業への関心が高まっています。また、日本の介護制度への関心も高く、その中には不動産業者が多いです。北京大学の学生に「日本には100年以上続く会社が2~3万社あるのはなぜか」と聞かれ、日本企業の経営理念の話をしました。欧米にない経営思想に関心が持たれ交流が進んでいます。一方、寧波市に将来の提言をしてほしいと招かれた際、寧波市がつくった世界中のネットワークから多数の参加者がありました。世界中が中国市場を重視しています。ドイツのメルケル首相は年に2~3回、財界人を連れて中国を訪問しています。日本の産業政策の遅れに焦りを感じます。

B氏(スマートフォン向け電子カタログ・書籍などのアプリ開発) インバウンド対応で飲食店向けのアプリ開発に取り組んでいます。2020年オリンピックを契機に観光の加速が予想されます。移民を受け入れ議論にも注目しています。

C氏(建築建材・金物等の販売) 2008年、上海に会社を立ち上げました。対前年度で40%伸び、建築業界は良い状況です。中国のゼネコンはよくありませんが、日本の1戸建て住宅デベロッパーが注目されています。再来年までプロジェクトがあり期待しています。日本の物件は中国と比べると高値ですが、モデルルームも人気があり、売れ行き好調です。現地の住宅建築技術とレベルの差があります。一方、電機大手のS社、P社の駐在員はどんどん減っていて、業種間の差が広がっています。

D氏(経営コンサルティング) 中国では労働契約法が成立し、企業の社会保障負担は半分を超えています。大連の求人広告の賃金は以前の2倍。高額所得者以外のワーカーも家を買えるようになりました。過剰生産を抑えながら消費を伸ばすのが「新常態」だろうと思います。大連での日系企業の直接投資も増え続けています。

E氏(保険代理業、事業承継の支援) 上海は経済減速の印象はありませんが、深圳市は落ち込んでいるようで地域差は大きいです。

高まる新事業への関心

F氏(精密機器加工装置の開発・製造) 電子デバイス業界は変化のスピードが毎年異なり、1~2週間で状況が変化します。最近では、設備投資の計画変更が見えてきました。これは製造装置メーカーに影響が及ぶ可能性があり、1~2年の調整・縮小期間をはさむことが予想されます。一方、中国では賃金上昇に伴い、作業用ロボットの需要が新たに増加しています。

G氏(人材派遣業、社員研修) 1700社のお客様のうち70~80社は中国系企業です。人材投入は陽の当たる会社から先にニーズが生まれます。

 中国系企業とは15年ほど前からのつきあいがあります。当初は重厚長大の製造業が多かったですが最近はサービス業の増加が顕著です。中国経済の減速は多少感じていますが先行き真っ暗というほど深刻なイメージはありません。経営者は開き直っていると思います。北京大学や精華大学を出て、日本企業やアメリカ企業で働きたいという方の支援の数も衰えません。アジア系企業の売上も減っていないように感じます。

H氏(総合建設請負業) 建材の品質は企業の間でほとんど差がなくなっています。取引先の中には、北京や上海で施工図をCADで書いてくる企業もあります。日本国内の建設職人はピークより180万人減少して今は400万人となっています。業界としても外国人労働者採用が課題になりますが、現在中国人は入ってきません。国交省はベトナムからワーカーを入れようとしていますが昨年数十人、来年600人という水準です。量的には焼け石に水です。中国では賃金が上昇していて日本で働こうという人も減っています。
I氏(衣料・雑貨卸売業) かつて墨田区にあったメリヤス工場は1965~1975年代に国内の地方圏に移り、その後中国へ出ていきました。

 現地での問題は品質と納期を守れるかどうか。国内市場は衣料量販店が停滞しています。食費を伸ばして衣料費を下げる消費傾向があります。人が集まるマーケットにどう売るかが課題です。厳しい状況でも売れている商品があり、オリンピック、健康ブーム、観光客に絡んだ戦略が課題になると思います。

中国向け産業政策に課題

植田浩史・慶應義塾大学教授(中同協企業環境研究センター副座長) 共通している点を考えてみます。

 ひとつは中国の最近のGDPは6・9%と減速は否定できませんが、中国経済がおしまいという捉え方ではありません。問題はありつつも伸びており、客観的にみると低い数字ではありません。

 しかし6・9%伸びているのになぜ問題が起こるのか。これまで10%以上の成長を前提とした仕組みがつくられてきたので少し落ちると影響が表れてきます。例えば、過剰投資が抑えられただけで影響が出る。それから、経済減速が原因でないものまで絡めて話がされています。スマホ減産はメーカーによって落ち込み方が異なり、ローカルスマホは伸びています。

 もう1つは賃上げの問題です。賃上げ率のデータは最低賃金が使われています。公定の最低賃金の伸び率は下降傾向です。

 しかし、賃金が大きな問題になるのはプラスアルファの手当の部分が手厚くなってきているのが理由です。企業側からみた負担が増えています。なおかつ、最低賃金で人がくるわけではないので上積みを行います。この抜け道を知っていてきちんと支払わず、最低賃金ぎりぎりで経営をするローカル中国企業も存在します。こうした企業と日本企業との差が明確に表れます。安い労働力を求めて中国に展開する企業はもううまくいきません。一方で、消費水準が上がっていることに着目して努力している企業は成功しています。

 それから、インバウンドについて、1回1000万円くらいの爆買いをする層がかなり厚く存在しており、爆買いが一気に落ち込むことはないと思います。しかし、今後日本に飽きたらどうなるかは不透明です。爆買いに依存すると、新しい爆買いをする人の開拓が必要になり、リピーターづくりの課題が発生します。

 最後に産業政策について提起をしたいと思います。ドイツは“インダストリー4・0”と称し、IoTによるビッグデータ分析で産業優勢性を確保する方針ですが、これは明確に中国を対象としています。中国でIoTを普及させ、現場で情報を蓄積し、それを集約・分析・活用して市場を確保する戦略です。こうした中国市場への戦略が日本政府にあるでしょうか。戦略が弱いように見えます。

「中小企業家しんぶん」 2016年 4月 5日号より