【同友会景況調査(DOR)概要(2016年1~3月期)】中小企業、第2次アベノミクス下で景気失速

調査要項

調査時点 2016年3月1~15日
調査対象 2,396 社
回答企業 969社(回答率40.4%)(建設178社、製造業309社、流通・商業298社、サービス業175社)
平均従業員数 (1)38.9人(役員含む・正規従業員)(2)36.5人(臨時・パート・アルバイト)
※業況判断DI(デフュージョン・インデックス)は、好転企業が悪化企業を上回っている割合(%)をさす。DIが100に近いほど、好転企業の割合が高いことを意味し、DIが-100に近いほど、悪化企業の割合が高いことを意味している。好転、悪化が同数の場合は、DIは0となる。ほかの指標のDIも同じ考え方で作成されている。各水準DI以外、本文中特に断りがないものは前年同期比。

主要指標で全面的に悪化、次期も回復見込めず

 日銀の3月短観(全国企業短期経済観測調査)は、大企業製造業、大企業非製造業をはじめすべての規模・産業で悪化を見込んでいます。個人消費と輸出も振るわず、足踏みを続けている景気の下押し圧力が強まっています。

 DORでも業況判断DI(「好転」-「悪化」割合)は6→△3と9ポイント悪化(図1)。足元の業況を示す業況水準DI(「良い」-「悪い」割合)も9→△2と水面下に沈みました。他の指標も全面的に悪化しており、中小企業景気は失速しています。前回のDORが「経営努力著しいが景況の腰折れか?」と警鐘を鳴らしたことが現実味を増しています。

 次期(2016年1~3月期)は業況判断DIが△3→△1と若干の持ち直し見込みですが、業況水準DIは△2→△5と悪化を見込んでいます。大きく回復する見込みはありません。

 業況判断DIを業種別でみると、建設業が8→△16で24ポイントの悪化、製造業が△1→△1で横ばい、流通・商業が5→△7で12ポイントの悪化、サービス業が18→11で7ポイントの悪化です(図2)。地域別では関東を除いた全地域で悪化しています。企業規模別ではこれまで好調だった100人以上を含めて、すべての企業規模で悪化しました。

仕入単価は下降するも生産性の指標改善が中断

 売上高DI(「増加」-「悪化」割合)は3→△1で4ポイントの悪化、経常利益DI(「増加」-「悪化」割合)は6→1と5ポイント悪化となりました。仕入単価DI(「上昇」-「下降」割合)は今期も大きく緩和され(20→9)、売上・客単価DI(「上昇」-「下降」割合)は微減(5→3)と2つの指標の差が縮まりました。しかし、1人当たり付加価値DI(「増加」-「減少」割合)は2→△2と悪化、1人当たり売上高DI(「増加」-「減少」割合)も2→△4と悪化し、それぞれ前期まで3期続いてきた改善が中断しました(図3)。生産性も岐路に立たされています。

人材確保への努力つづく

 一方で、人手の過不足感DI(「過剰」-「不足」割合)は△37→△38と強い不足感が続いており、とりわけ建設業とサービス業の人手不足に対する危機感が強まっています(図4)。人材確保・維持の努力が展開されており、こうした取り組みを結実させるための地域ぐるみの支援も重要な課題です。

設備投資への躊躇感のあらわれ

 設備投資の過不足感DI(「過剰」-「不足」割合)は△16→△18と設備の不足感が強まっている一方、設備投資実施割合は33.9%→31.8%と下降、前期に予測されていた35.6%と離れた結果となりました。設備投資をする計画がない理由として「投資しても採算の見込みなし」、「自業界の先行き不透明」という声が大きくなり、「当面は修理で切り抜ける」が上昇しています。設備投資への躊躇感があらわれています。

 経営上の問題点は「民間需要の停滞」が36%→38%と増加、「同業者相互の価格競争の激化」も35%→38%と増加しており不況感があらわれています。また、「従業員の不足」、「熟練技術者の確保難」が高止まりしており、人材確保難への危機感が続いています。

人材確保と社員教育への注力

 経営上の力点は社員教育、人材確保に注力する傾向が強まっています(図5)。厳しい人材確保難の打開策に向けて、模索と実践が広がっています。同友会企業の実態や実践を積極的に発信し、行政と相互に支援施策について意見交換するなど、連携体制強化が課題になっています。

 人的資源の蓄積こそが企業の成長、豊かな地域社会を形成するための新しい価値を創りだす源泉です。「人を生かす経営」の理念を共有する企業づくりの真価が問われています。

人材確保の実践事例

○熟練技術者の確保が困難な中、自社で熟練していくシステムを導入した。より付加価値を高める営業、製造展開をしていく(広島、製造業)

○事業承継と幹部社員の世代交代を視野に入れ多重人件費の負担になるが頑張り時である(北海道、建設業)

○現在、事業承継や後継者が課題となっているため、中期事業計画(5年間)を若手で作成して取り組んでいる(富山、建設業)

○生活保護受給者を採用して、自立を応援しているが入社して仕事をすると保護費が減るので、仕事を減らすという方がいたので、理解してもらうための説明内容を協議した(千葉、サービス業)

○協力会社にベトナム人研修生を斡旋し、人手不足の解消に対応している。集合住宅のリニューアル工事に女性の採用を増やし、グループ化している。新卒採用では、意欲があれば文系学生を採用し夜間の専門学校へ通わせる勤労奨学制度をつくり4月から運用する(東京、建設業)

「中小企業家しんぶん」 2016年 5月 5日号より