【あっ!こんな会社あったんだ】採用と教育 「街」を創り「暮らし」をまもる ~若者に選ばれる企業づくり~ クレア工業(株) 代表取締役 佐藤 宏樹氏(宮城)

 企画「あっこんな会社あったんだ」では、企業経営に関わるさまざまな専門課題に取り組む企業事例を紹介しています。今回は「採用と教育」をテーマに、佐藤宏樹氏(クレア工業(株)代表取締役、宮城同友会会員)の実践を紹介します。

 当社は、1966年に現会長(伯父)が創業しました。それ以前は、祖父が木舞(こまい)と呼ばれる左官下地をつくる商売をしていましたが、木舞壁の減少を機に、業務転換し創業しました。私は2006年に入社、2年後に35歳で代表取締役に就任しました。その際、会長と2つの約束をしました。

業界を守る・生活を守る

 1つは「どんな状況でも採用を継続させること」です。左官業の仕事は「施工能力=職人数」であり、職人不足を理由に自動化や他の工法への置き換えが進めば業界全体が衰退するため、「業界を守る」という意味も込められています。2015年の国勢調査では、左官業従事者は7万3600名ですが、2025年には4万名を下回ると予測されています。2020年の業界予測値と当社左官工事部に在籍する職人58名のデータを比較すると(※カッコ内は当社数値)、60歳以上が54%(33%)、40歳未満が14%(63%)、平均年齢は56歳(45・4歳)となり、採用を継続してきた当社では、幅広い年代層が活躍していることがおわかりいただけるかと思います。

 もう1つは「累積赤字が 1億円を超えたら会社をたたむこと」です。これは「社員の生活を守ることを第1に考えろ」という意味で捉えています。会長は「安心して働くためには、生活基盤の安定が大切」と、その当時の建設業界では珍しかった月給制の導入や、社会保険加入などの「待遇改善」にも取り組みました。現在は、中央・地元ゼネコンを主要取引先に40~50社から仕事をいただいていますが、各社売上比率は最大10%程度、おかげさまで左官工事売上、一級左官技能士在籍数30名(=左官職人在籍数)とも東北地方No.1です。

業界の当たり前を疑え!~新入社員教育の改革~

 しかし年々採用環境は厳しさを増すと同時に早期離職の改善も課題となっており、新入社員研修にも力を入れています。自社施設で行う技術研修では、「モデリング(※日本左官業組合連合会の青年部作成の専用DVD動画を使い、DVDの中の職人の動きを観て真似る)」という研修を導入しています。これは「仕事は見て盗め」の現代版です。新入社員はこの研修で基本的な技術を習得して現場に出るため、研修の効果を実感した職長は、新人に対して積極的なチャレンジをさせ、早ければ「職人」と呼ばれる4年目から小さな現場の職長を任せられている者もいます。

 「10人10色」という言葉がありますが、当社社員は77名で「77人77色」、皆が自分と同じではないからこそ、互いに諦めずに関わり続けることが大切です。日々、先輩には「自分から階段を下りてこい」、若手には「自分から歩み寄れ」と語っています。

安定経営に求められるもの~広報と採用は不離一体~

 採用の話をすると、できない理由が挙げられがちですが、自分でできることから着手し、失敗を改善していかなければ社会にも認知されず、人も集まりません。今年は「人材採用は企業広報」と位置づけ、広報担当者を採用し、「採用対象者(本人、親、所属校の先生)の10%に、クレア工業を知ってもらうこと」を目標に設定。各種ウェブ媒体、地下鉄広告、協賛広告、金融機関の店頭電子広告、企業紹介誌などもフル活用し、県内外の学校訪問や資料送付、職場見学会&塗り壁体験会も実施。可能な限り多くの学生・生徒・先生と接点をもち、社長である私自身が直接伝える機会を大切にしています。来春は、大学卒2名(男1:女1)、高校卒4名(男2:女2)の計6名の内定者が入社します。汗をかき、足で稼いだ分だけの成果が出たと実感しています。

 採用、育成、広報に積極的に取り組むことは、取引先への安心感や安定経営にもつながります。私たちが建物をつくることで、「街」ができ、人・家族が集まり、雇用の場づくりや若者育成にもつながり、結果として「暮らしをまもる」ことにもつながります。それがクレア工業の企業としての使命であり、社長としての私の責任です。

会社概要

創業:1966年
設立:1970年
事業内容:左官工事業(左官工事、樹脂注入工事、外壁改修工事・外壁劣化補修工事)、一般住宅(新築・リノベーション工事)ほか
従業員数:正社員77名
所在地:宮城県仙台市若林区かすみ町24-15
URL:https://crear-indst.jp/

「中小企業家しんぶん」 2022年 12月 15日号より