人を生かす経営で会社に変化を!!~忘れられない2年半の軌跡(株)シケン 代表取締役 島 隆寛氏(徳島同友会代表理事)

第7回人を生かす経営全国交流会inとくしま【実践報告】

同友会運動と自社経営は不離一体です。社長を引き継いで20年、同友会に入会して19年になりますが、いろいろな影響を与えて頂きました。2017年に「第7回四国で一番大切にしたい会社大賞」を頂きましたが、同友会で学んでいなかったら受賞できなかったと思います。

採用と定着

現在、歯科技工士の卒業生は全国に800人しかいません。私が学生の時と比べて4分の1になっています。毎年30人、40人と新卒採用していましたが、800人の中から採用するには会社が評価されていないとできないと思って取り組んでいます。

コロナ禍になってから採用のオンライン化が進み、社員が工夫を重ねて取り組んでいます。SNSを用いた情報発信や説明会を実施するようになり、最終面接だけ経営幹部が直接会うという形に変わりました。Zoomでの内定者懇談会なども行っています。

新入社員研修や2年目研修など、「入った後が大事」と教わったこともあり、特に最初の3年くらいはしっかりと研修をしています。入社して10年ほどの社員たちには、研修で講師役をしてもらっています。同友会の先輩に「新卒で入った社員が10年くらい経って責任を持った立場になると、社長は仕事がしやすくなるよ」と言われ、最初はピンときませんでしたが、今ではその言葉の意味も理解でき、とてもありがたいと思うようになりました。入社半年後研修を社員が発案してZoomで実施していますが、実は私はその取り組み自体を知りませんでした。

コロナ禍でも社員に能力を発揮してもらうために、1人1台端末を用意することで在宅勤務ができるようにしました。2チームに分かれての隔日勤務、BCPの観点で月のうち1週は強制的に在宅勤務にするなどの取り組みを行ってきました。SNSを活用した会社の情報発信などをしてもらっており、在宅でも働けるモデルケースになっています。コロナ禍だからこそできたことだと思いますし、徳島でリモートワークをできるようにした会社は少ないと思います。

記名式・無記名式のアンケートも実施しており、それぞれの項目を採点して変化を見られるようにしています。「会社の経営理念を理解しているか」「総合的に満足しているか」などいろいろな角度から分かるようにしており、「製造から営業に回りたい」「海外でも活躍してみたい」などといった希望も取るようにしています。

よく「どうやったら離職率が下がるのか」と言われますが、「これをやったから数字がよくなる」というものはありません。会社の軸・体質を変えることが必要だと思いますし、その中で獲得できたものこそがほかの会社との差別化になるんだろうと思います。

社員共育

年次に応じたさまざまな研修を実施しています。2年目の社員には1年目の時と比較して成長したことを共有し、先輩社員にも自分たちの経験を話してもらっています。私の話よりもよっぽど心に響いているようで、積み重ねが大事だと感じています。4年目の社員には、リーダーとしての心構えや、後輩たちの面倒を見てほしいという話をしています。

管理職研修にも取り組んでいます。私は27歳から社長をしていますので、20年ほどの付き合いのメンバーが現在では課長や部長になっており、本当にありがたいことだと思っています。研修では「役割を演じる」ということを伝えています。たとえば、課長は課長の役割を演じるのが役目で、演じているうちにだんだんその役職にふさわしい自分になってくるということなのかなと思います。

また、高いスキルを持っている社員の動画をアーカイブ化し、その手さばきをいつでも・どこでも見られるようにしています。さらに、これまで歯科医院の先生に「あなたの会社は特殊なので作り手の顔が見えない」とよく言われていましたが、Zoomで打ち合わせができるようになったので、細かい要望を直接伝えられるようになりました。これは革命的なことですし、コロナ禍によってそれが世の中の標準になったことはものすごい進化だと思います。

経営指針成文化と社内での浸透

徳島同友会で「経営指針実践塾」という半年間で経営指針を成文化する取り組みが立ち上がりました。それによって弊社でも経営指針を成文化し始め、現在では社員と一緒に更新しています。だんだんと進化してきていますし、会社のめざしている方向性をビジュアル化して伝えるようにしています。読み合わせをして理解を深めるということもやっています。

「企業変革支援プログラム」にも長年取り組んでいます。2013年に経営労働問題全国交流会が徳島で開催され、私はその時に企業変革支援プログラムをテーマに報告しました。『経営指針作成の手引き』にも、企業変革支援プログラムの活用事例として弊社が掲載されています。今も経営幹部と一緒に点数をつけて取り組んでいます。同友会でよいとされていることには素直に素早く取り組むといいと思います

多様性のある企業づくり

歯科技工士には、さまざまな材料の特製を熟知し、精密な技工物を提供する技術が求められます。その技術は容易に習得しがたいものです。例えば、製作工程上、技術的なレベルが高いエース級の人が最後に差し歯の形を決めますので、その代替要員がいないと仕事を休めません。そのために弊社はかねてから多能工化を進めてきましたし、そのかいあって雇用調整助成金が活用できました。徳島県内で雇調金を活用したのはかなり早い方だったと思います。

また、歯科技工士は聴覚に障害がある方や足が不自由な方などにも向いている仕事で、弊社では障害者雇用率は自然とクリアできています。経営指針発表会に手話通訳の方に来てもらいましたが、社員は必ずしも手話が得意なわけではありません。文字を見た方が分かりやすいという方もいるので、今はタイピングのボランティアの方に来て頂いています。あとは、災害用のブザー音が聞こえないため、回転灯をつけて緊急時に見えるようにしています。アーカイブ動画にも字幕をつけて勉強できるようにしており、実は健常者にとっても字幕が付いている方がわかりやすく、誰もが働きやすい環境を整えることが社内全体のプラスになっています。

また、シケングループで働く社員のうち3分の1が外国人です。シケングループの次の10年ビジョン検討の際には、40歳以下の若手社員や外国人の社員も入れて話し合いをしており、SDGsやさらなる多様性も考慮していきたいと思っています。

これらの取り組みは、コロナ禍の中で社員が進めてくれました。私が指示したわけではありません。これが同友会の成果であり、ノウハウではないかと思っています。アフターコロナになってから、これらの取り組みがどれだけよかったかを話せる機会があったらいいなと思いますし、乗り越えられた喜びを社員と分かち合える時間が来るのを祈念しています。

会社概要(交流会当時)

設立:1979年
資本金:4,975万円
年商:55億9,000万円
社員数:688名(内パートアルバイト111名)
事業内容:歯科技工物の製造・販売、歯科材料の販売、咀嚼機能材料の研究・開発
HP:https://www.shiken-jp.com

「中小企業家しんぶん」 2023年 2月 5日号より