【黒瀬直宏が迫る 中小企業を働きがいのある職場に】人材育成を経営の柱に、独立企業をめざす(後編)(株)丸忠 代表取締役 喜納 朝勝氏 (沖縄)

 黒瀬直宏・嘉悦大学元教授(特定非営利活動法人アジア中小企業協力機構理事長)が、中小企業の働きがいをキーワードに魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。今回は、(株)丸忠(喜納朝勝代表取締役、沖縄同友会会員)の取り組み(後編)を紹介します。

「成長シート」

 前編では(株)丸忠は社員の育成と協力関係の形成を発展策の柱にしたと述べました。同社では自律的な人材育成のために各種の仕組みをつくっていますが、その核になるのが「成長シート」です。これは職種・職階別に決められ、「ルートセールス・一般職」の場合には「勤務態度」「知識・技術」「重要業務」「成果」という項目があり、「勤務態度」については「使命感」「明朗性」「協調性」といった細目ごとに1~5点の評価点をつけられます。1~4点は自分がどの程度できるかを示し、5点はそのことに関し周りにも働きかける力を持っていることを示します。満点は100点で、同社の優秀社員をモデルとしています。

 点数をつけるのは本人、上司、および部門を超えた管理職で構成されている「成長支援会議」で、「成長支援会議」が最終決定をします。評価は年4回行われ、つけられた点数は「3カ月やってどうだった」の結果であり、本人の成長は点数の増加として現れます。結果は、部門長は社長から、社員は部門長から面談でフィードバックされ、本人評価との差などが説明されます。客観的に数値化された「成長シート」を見ながら意見を交換し合えるので、よりよい仕事の仕方の模索や今後の本人の課題が確認できます。また、面談の中で、日ごろの仕事で困っていることやプライベートの部分に関しても相談が行われ、面談がコミュニケーションの場ともなっています。本人の課題、例えばセールストークをもっと磨かなければならない場合にはそのための研修が用意されており、「成長シート」は成長支援システムと連動しています。

 「成長シート」での点数は賃金やボーナスにも反映されます。賃金は年齢給・勤続給のウエイトが50%、成長給が50%です。人は成長したからと言って直ちに目に見える形で企業業績に貢献するわけではありません。成長給は人の成長の目に見えにくい形での企業への貢献を評価し、経済的報酬として還元するものと言えます。

 以上のように、「成長シート」は社員の成長の見える化、課題に基づく教育、能力にふさわしい処遇、という3つの目的を持っています。

経営指針の共同作成

 社員の協力関係の基盤は情報共有です。中でも企業の進む方向を示す経営指針の共有が重要です。(株)丸忠では社員共同で経営指針を作成します。まず3月中に社長が情勢分析をもとに基本方針を決めます。それをもとに各部門長が部門方針を考え、4月の幹部研修時に持ち寄ります。そして、決算前の5月に全従業員が集まる「1泊研修」時に全員参加で指針書を最終的に作成し、年度終わりか初めの指針発表会で公表されます。指針の前月の実行状況は、毎月1回の部門長の集まりでチェックされ、今月行うべきことを決めます。これは月1回の全従業員が集まる場で周知され、従業員間で情報格差が出ないようにしています。

朝礼、「一日一考」

 情報共有という点では朝礼も重視しています。特に、月・水は社長が話をし、その後立ったままグループ討論をして出された意見を発表します。「一日一考」は、「今日お客様からこんなことを言われた」といったことや改善提案を、毎日1つ発信するもので、経営指針の共有が経営のマクロレベルから社員というミクロレベルへの情報共有であるのに対し、社員の持つ現場情報をマクロレベルでも共有するものです。

 ハウスケア部門は年末には忙しくなるので他の事業部門に支援を頼むといった部門横断的な自主的な協力関係が形成されていますが、以上のような情報共有が土台になっています。

まだ課題だらけ

 喜納社長は「まだ課題だらけだ。『成長シート』の精度はもっと高めなくてはならない。経営指針の活用もまだまだだ」と言います。各種の制度は喜納社長のリードの下に構築されてきました。社員からは「社長がまた何か変わったことを始めたぞ」という反応もあるようです。「1泊研修」に向けて行われる社員アンケートでは「会社のやっていることは無意味」といった記述もありました。制度を社員が自分たちのものとして使いこなすのを理想とするならば、働く仕組みづくりはまだ完成途上なのかもしれません。

会社概要

設立:1977年
資本金:4,800万円
従業員数:41名
事業内容:リースキン事業(家庭用、業務用ダストコントロール商品のレンタル)、ハウスケア事業(事務所・店舗クリーニング、ハウスクリーニング)、トータルコーティング事業(新築住宅のフロアコーディング、水回りコーティング、窓ガラス断熱フィルム施工)など

「中小企業家しんぶん」 2023年 2月 5日号より